家の電気や水道が未払いで止まることも度々だったというから、ネグレクト状態にあったといえるだろう。
父親は長距離の仕事の後に二、三日の連休をもらっていたが、そんな日は朝から浴びるほど酒を飲んだ。昼過ぎには泥酔し、機嫌が悪くなってくると、テレビの前にいるR華を理由もなく殴りつけた。R華は毎回サンドバッグのように心を無にして殴られ、ひたすら暴力が収まるのを待った。考える気持ちを捨てなければ、不条理に耐えられなかったのだろう。
こうした家庭環境によってR華は人間不信に陥り、意見をまったく言わない子供に育った。
授業中に先生に声をかけられても黙りつづけ、休み時間は誰とも話さずに禿ができるほど髪を抜いたり、指の皮をむいたりして過ごす。同級生からからかわれ、小学五年からは不登校になった。
父親に命じられ、スナックで働き始める
中学に上がると、父親はR華に「学校へ行かないなら働いて家計を助けろ」と言って、知人のスナック店で働かせた。R華はスナックが何をするところかも知らないまま言いなりになり、十九時から午前二時頃まで働いた。給料はすべて父親が奪った。
十五歳のある日、店の常連だった半グレの男たちに目をつけられた。中学生を働かせているくらいだから質の悪い店だったにちがいない。半グレの男たちはこう言った。
「店に来てない時間は暇なんだろ。客を紹介するから売春しろ」
R華は男性経験もなかったが、抗うことなく一日三~五人の客を取った。最初は客が払う二万円のうち半額をもらえる約束だったものの、毎日半グレの男たちから「腕時計を買え」「酒代を払え」とたかられ、すべて言いなりになって払ったせいで、金はまったく残らなかった。
彼女は私の質問にこう答えている。
――男たちに金を払ったのはなぜ?
言われたから。
――悔しくなかった?
……サンキューって言ってくれる人もいた。
――売春は嫌だった?
そうだけど、他にすることないし……。
――後悔してる?
わかんない。
家出少女たちを連れ込む半グレ男たち
売春をはじめて三週間後、R華は半グレの男たちのたまり場のアパートで暮らすようになる。父親にしてみればスナックの給料さえもらえれば娘なんて知ったことではなかったのだろう。
半グレの男たちはいろんな家出少女をアパートへ連れ込み、覚醒剤を打っては強姦し、売春をさせた。何人かの少女は泣きじゃくっていた。R華は目の前で強姦が行われても、誰かが殴られても、スマホのゲームをして知らん顔していた。たまに何かの拍子に現実にもどると、得体の知れない不安に陥りリストカットをした。手首を切れば「心がパッとした」そうだ。
ある日、アパートにいた別の家出少女から「死にたい」と相談された。R華は理由も訊かず、「わかった」と練炭を用意するなど自殺を手伝った。最終的に、自殺は失敗に終わったが、少女が病院へ搬送されたことで一連の犯罪が明るみに出る。