警察がアパートに踏み込み、男たちとともにR華も逮捕された。R華は売春だけでなく、家出少女の監禁の手伝いや、自殺幇助をしたとされ、少年院に送られた。

自分はどうしたらいいか、わからない

読者は、R華の人生にいくつもの「なぜ」を挟みたくなるだろう。

なぜ黙って父親の虐待を受け入れたのか、なぜ命じられるままに水商売や売春をしたのか、なぜ逃げださなかったのか、なぜ自殺を手伝ったのか……。

彼女の言葉はおよそ二通りだ。「わかんない」か「言われたから」である。言いなりになればどういう事態になるのか、逃げるために何をすべきなのか、自分はどうしたいのかといった思考が皆無なのだ。

R華の人生をトータルで見ると、その原因が家庭環境にあることは否めない。幼い頃に虐待下で身につけた思考停止の習慣は、暴力に満ちた現実を生き延びる術だったはずだ。しかし、思春期になって環境が変わったことで、その特性は他人からいいように利用される弱点となる。

彼女は父親や半グレの男たちからの身勝手な要求を思考停止のまま次々に受け入れ、最後は押しつぶされた。

彼女を担当していた少年院の法務教官は次のように述べていた。

「昔の非行をする少年って、恐喝にしても、リンチにしても、悪いことだと自覚してやっていたと思うんです。少年にしてみれば、それがグループの行動原理だから、やらざるをえなかったし、やることによってグループの仲間に自分を認めてもらっていた。だから、少年院では、『その考えは間違っているよね。だから直そうね』という指導ができました。

一方、R華のような今の少年たちは、自分がなんで悪いことに巻き込まれ、どれだけ重大なことをしているかに無自覚です。少年院に来ても、なんで自分がここにいるのかわかっていない。そうなると、まずそれをわからせるところからスタートしなければならなくなります」

悲しい、苦しい気持ちを言葉にできない

これは女子に限ったことではなく、男子の非行にも当てはまる。男子の非行は暴力という形で現れる傾向にある。

先の乾井は述べる。

石井光太『ルポ 誰が国語力を殺すのか』(文藝春秋)
石井光太『ルポ 誰が国語力を殺すのか』(文藝春秋)

「不幸な境遇で育った少年は、『悲しい』とか『苦しい』とか自分の感情を言語化するのが不得意です。彼らにとって厳しい現実と向き合い、言葉によって気持ちを深く掘り下げていくのはつらいことなので、向き合おうとしないのです。考えれば考えるだけ苦しむことになる。だから、自己分析がとても苦手です。

一方で、怒りの感情は『むかつく』『殺す』『死ね』など驚くほど簡単に口にします。これらは自分ではなく、他者に向けられるものなので言語化しやすいのかもしれません。自分の内面から目をそらし、他者に向けて放てばいいだけですから。でも、そんな言葉を発すれば、相手と衝突しますし、後先考えずに手を出せば暴力行為になります」

こうした子供たちに言葉を持たせるのは容易いことではない。乾井も言うように、言葉を持つのは自分を傷つける行為でもあるためだ。

だが、その痛みを伴う一歩を踏み出さなければ、更生の道は開けない。

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