利上げを行った米国、動かなかった日本

その状況下、日銀は企業の賃上げなどを支えるために異次元緩和を継続した。特に、2022年8月のジャクソンホール会合において、日米の金融政策の方向性の違いは一段と鮮明化した。連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、インフレ鎮静化のために金融を引き締めなければならないというスタンスを一段と明確に示した。

日銀の黒田総裁は、国内で持続的な賃金の上昇が実現するまではYCCなど異次元緩和を継続する必要があると慎重な立場をとった。それ以降、主要投資家は日米の金利差はさらに拡大するとの見方を強めた。

その結果、外国為替市場ではドル買い・円売り(円キャリートレード)が急速に増加した。9月の連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBは0.75ポイントの追加利上げを年内にもう一回実施する方針を示した。一方、同月の決定会合で日銀は異次元緩和を続けるスタンスを維持した。ドル買い・円売りのオペレーションを行う投資家は一段と増加した。こうして10月21日、一時1ドル=151円90銭台まで円安が急速に進んだ。

その結果、資源などの価格上昇と円安の掛け算によって、わが国の輸入物価は上昇し、家計の生活負担は追加的に高まった。状況の悪化に歯止めをかけるために、12月の日銀決定会合にて異次元緩和策は修正された。

国債市場の機能低下が深刻に

国債市場の流動性も低下している。国債市場の価格形成機能の回復を目指すことも、今回の金融政策修正の狙いの一つだ。1999年2月に日銀はゼロ金利政策を開始した。以降、一時的なゼロ金利の解除期間はあったが、わが国では超低金利の環境が続いた。2012年11月の衆議院解散を経て“アベノミクス”が本格始動した。2013年4月に日銀は“量的・質的金融緩和”を導入し、金融緩和は強化された。それは株価上昇や一時的な賃上げを支えた。

日銀は長期金利の上限を0.25%に維持するために国債買い入れを継続した。それによって国債の取引は減少した。過去に発行された10年国債に関しては、取引の成立が難しいケースも増えた。市場機能の低下だ。それは経済全体にマイナスの影響を与える。