成長期待の高い分野に資源が行き届かない

例えば、物価が上昇する場合、金利は上昇する。それによって株式や不動産などの価格も変化し、経済全体でのヒト、モノ、カネの再配分が促される。それが自然な経済と金融市場の姿だ。しかし、日銀が流通市場から国債を買い入れ続けた結果、10年の新発国債の流通利回り=長期金利は日銀が上限とした0.25%に張り付いた。物価上昇を抑えるために中央銀行が利上げを実施し、株価や労働市場に変化が表れた米国とは実に対照的だ。

異次元緩和が長期化した結果、市場の厚みが失われたといってもよい。国債入札に参加する“プライマリーディーラー”の資格を返上する内外の大手機関も出始めた。時間の経過とともに国債の流動性は枯渇し、2022年9月末時点で44.9%の国債を日銀が保有するというかなりいびつな状況も出現した。YCCによって長短の金利差は縮小し金融機関の収益力も低下した。その状況に、日銀だけでなく、財務省からも懸念が表明されてきた。

東京駅丸の内北口の交差点を渡る人々
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その一つとして、2022年6月に財務省は“国の債務管理に関する研究会”を開催すると発表した。目的は、中長期的な視点から国の債務管理政策を検討することだ。低金利環境が長引けば、国債市場の機能はさらに低下する。成長期待の高い分野に生産要素がよりダイナミックに配分されることも難しくなるだろう。そうした懸念の高まりも政策修正につながった。

今後、日銀はどうするのか

今後、日銀は慎重かつ時間をかけながら、異次元緩和のさらなる修正に取り組むだろう。日銀の本音としては、総裁が代わる2023年4月以降、経済状況を注視しつつ、徐々に金融政策の正常化を図りたいはずだ。

いくつかの要因がある中、最も重要なのは追加的な物価上昇の可能性だ。2022年11月の企業物価指数は前年同月比9.3%上昇した。川上のインフレ圧力は強い。一方、10月、川下の消費者物価の上昇率は総合指数で同3.7%、生鮮食品を除く総合指数で同3.6%だった。米国などに比べて消費者物価の上昇ペースは弱い。その分だけ国内企業は自助努力としてコストを吸収しなければならない状況が続いている。