【島田】社内で示しているのはもう少しコンセプチュアルな「DE(Digital Evolution)・DX(Digital Transformation)・QX(Quantum Transformation)戦略(※5)」というものです。デジタル化を分解して考えると、目の前の顧客のサービス化を進めるのがDEです。対して、DXの私の定義は、顧客をマルチのカスタマーにしていくことです。つまり直接の顧客からお金をいただかずに、他の人からお金をいただく。この方程式を皆に示したら数百以上のアイデアが出てきていて、すでに50以上のプロジェクトが走っています。それらが完成してくると、2025年あたりから利益率が上がりまったく違う世界に変わっていくと思います。

(※5)QXにより量子コンピュータが実現すると、従来のコンピュータでは困難だった領域の計算や、巨大な空間での最適化ができるようになると期待されている。

【田中】DE・DX・QXに分解したことで道筋が見えたということでしょうか。

【島田】そうですね。やはり一番の問題は、自分で自分の仕事をここまでと、決めてしまっていることです。デジタルの製品は価格も安くなりがちですが、サブスクにしたりサービス化したりすることで大きな違いが生まれます。そうすることでお客様の情報を得ることができますから、次の提案も大きく違ってきます。どこに線を引くのかを根本的にやり直したことが重要なポイントです。

目指すべきは「カーボンネガティブ」

【田中】次におうかがいしたいのは、今の日本の課題についてです。さまざまな要因があいまって円安になり、個人消費に非常に大きな影響を与えています。特に小売業は大打撃ですね。一方、円安だからこそ、日本の製造業にはチャンスがあると思います。製造業×DXの方向で企業再編が進んでいる中、東芝の果たす役割は非常に大きいかと思います。製造業×DXの文脈で、スケールフリーネットワーク以外で御社が中核になって果たせる役割にはどのようなものがあるのでしょうか?

【島田】一番はカーボンニュートラルです。さらに我々が目指すのは排出量をマイナスにするカーボンネガティブです。新聞の記事にもなっていましたが、このままでは2050年のカーボンニュートラルは達成できないと。2020年に新型コロナウイルスの影響で世界中がロックダウンした際にはCO2が大きく減ったようですが、ずっとそのレベルで減らさないと2050年の目標は達成できません。これは絶望的な状況で、本当に真剣に取り組まないといけないでしょう。

我々はエネルギーカンパニーなので、新技術を用いたパワー半導体などをどんどん提供していきます。ただ、誰もがCO2を減らすといっていますが、実際には排出権を買っているだけのケースもありますし、本当に十分な量を減らしているのかどうかという問題があります。1970年代頃はガソリンが安かったので、車の燃費を気にしてる人はほとんどいませんでした。しかし、ガソリンの値段が上がるにつれて燃費を気にする人が増えてきました。80年代は車の安全性よりもスピードが重要でした。ところが、ボルボのような企業が安全性を謳うと安全性に配慮しない車は売れなくなってくる。

これからは自動運転の時代です。自動運転が好きか嫌いか関係なく、自動運転機能がついていない車は売れなくなってくるでしょう。それと同じで、CO2をたくさん排出する製品は誰も買わなくなってくると思いますし、そう変わらないと世界中が本気になりません。だから僕はスマートレシートで商品のCO2排出量を見えるようにしたいのです。

【田中】ビル・ゲイツは本気でCO2をゼロにすべきだと発言しています。彼はテクノロジーでCO2をゼロにできると確信していますし、「インダストリー4.0(第4次産業革命)」の名手であるドイツのボッシュは、CEOだけでなく75%の社員がテクノロジーで環境問題が解決できると信じているとHPに記載されています。

【島田】それは私もまったく同感です。環境問題はテクノロジーでしか解決できないですね。テクノロジーは問題を見える化しますが、テクノロジーを進化させるには、企業の空気やそれを後押しする国民の理解が進まないと駄目だと思います。

【田中】ビル・ゲイツがよくいっているのは、ただ行動を起こして終わるのではなく、貢献度の大きさに着目せよということです。その行動はCO2をゼロにするためにどれだけ貢献しているのか。東芝はこの分野で非常に貢献度が大きいかと思います。

【島田】我々はカーボンネガティブを目指しています。ゼロではなく、マイナスにする。そのためにCO2をキャプチャー(捉える)する技術などの研究を進めています。そこまでやらないとカーボンニュートラルは実現できないでしょう。

写真=デジタルシフトタイムズ
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