強硬派の狙いはプーチンの後継者

戦争肯定論を展開するこれら強硬派の人物らは、何をねらっているのだろうか。トゥルチャク党首にようにプーチン氏の興味を引き、後釜として有力な地位を確保したいとの算段があるのは間違いないだろう。

クレムリン(写真=CC-BY-3.0/Wikimedia Commons

米超党派シンクタンクのカーネギー国際平和基金は、さらに突っ込んだ見解を示している。少なくとも傭兵集団トップであり「プーチンの料理番」でもあるプリゴジン氏については、ウクライナ侵攻で失態が目立つ軍部上層部の失脚を企てているほか、党の設立をにらんだ政治運動を展開しているとの分析だ。

ところが、プリゴジン氏を含む強硬派の大多数は、世論にさして実質的な影響を及ぼしていないとの見解も出ているようだ。例外的に、メデューサは前線に足しげく通い支援物資を供給しているトゥルチャク統一ロシア党首を、「Walk the walk(行動で示す)」人物だと受け止めている。

一方、カーネギー国際平和基金は、多くのタカ派有力人物らが「Talk the talk(口先だけ)」にすぎないとしている。Telegram上では舌鋒ぜっぽう鋭いが、政局への影響は限定的だとの見方だ。

タカ派陣営はウクライナ市民をナチスになぞらえて否定し、その一方で自らはファシズム的なことば遣いで民衆をあおるという、矛盾した行動を繰り広げている。過激な表現を多用して人々の感情に訴えているが、その効果のほどは不透明だ。

強硬派を野放しにするプーチンの深謀

だが、こうした冷静さを欠く人物が多く見られるようになったことで、対照的にプーチン氏が説得力を帯びているとの分析も聞かれるようになった。大西洋評議会は、「良い警官・悪い警官」の構図になっていると指摘する。

「良い警官・悪い警官」は、警察の取り調べで使われる技法とされる。容疑者を取り調べる際、片方の警官があえて悪辣あくらつな態度で接することで、容疑者はもう一方の優しい警官に心を開きやすくなるという心理効果だ。

大西洋評議会は、「メドヴェージェフ(前首相)はあからさまにファシズム的なことばを使い、悪い警官を演じている。これによりプーチン大統領の脅迫的なスピーチは、驚くほど温和な響きが感じられるようになっている」と述べる。

ウクライナはロシアの脅威であるなどと論理性に欠ける主張を展開するプーチン氏だが、演説での立ち居振る舞いは穏やかで自信に満ちている。感情を爆発させてきた歴史的ファシスト的指導者らの姿とはほど遠い。

メドヴェージェフ前首相が穏健派から猛烈な戦争推進派へと急転したことで、現在ではプーチン氏の冷静さが際立ち、論理的説得力を帯びているとの分析があるようだ。