取材ノートに書き続けていること
私は「こまかすぎる解説者」と言われることに、恐縮しつつも少し恥ずかしい気もしています。とりたてて努力しているわけではなく、ただその人に興味があって、もっと知りたいという好奇心がそうさせているだけだからです。
取材ノートに、現場で出会った選手たちの練習ぶりや日々の生活の様子、監督や家族から聞いたエピソードなど、何でも綴ってきました。
「マラソンにはまぐれがない」という言葉があります。良い結果は、完璧に練習をこなしたときにしか出ないといわれる厳しい競技。さらにレース当日の天気やコースのコンディションによっても記録の伸びが左右され、最後まで何が起きるかわからない。それだけにレースを観る人にとっては、42.195キロが人生のドラマと重なり合うのかもしれません。
この取材ノートには、自分の支えになる言葉も書き留めています。新聞を読んでいて「これだ!」と思った言葉、出会った人から聞いて心に残る言葉などを、ノートの後ろのページにメモしていたのが始まりで、一冊のノートの後半は「言葉ノート」になっています。
「誰かの靴を履く」という言葉もメモしてありますし、松任谷由実さんの言葉も書いてあります。ユーミンは、ある賞の贈呈式での挨拶で、こう語っていたのです。
「私の名前は消えても、歌だけが詠み人知らずとして残るのが理想だ」と。そんな気持ちで仕事をするのは素晴らしいことだと、感じ入りました。
こうして大切な言葉を書き留めておくことで、私自身の心の引き出しも少しずつ豊かになっていると思います。もっとも引き出しに入れっぱなしにしたまま、なかなか開けず、取り出せないことも多いのですが……。
「汗かき、恥かき、手紙書き」
書くという習慣でいえば、お世話になった方に手紙を書くことも心がけています。「汗かき、恥かき、手紙書き」、私はこの言葉がとても好きなんです。
テレビやラジオ、講演やイベントの仕事でも、終わった後にお礼状を書かないと終わった気がしませんね。
テレビの仕事はスピーディーなので、番組の放送は必ず見て、見終わったらすぐに制作の方に感想をメールで送ります。
今は何でもメールで済ませる時代ですが、できるだけ手紙を書くことで自分の気持ちが伝わればいいなと思っています。「汗かき、恥かき、手紙書き」が、私の変わらぬモットーです。