警察も探偵も見逃した情報はあるのか

まずは大家など、資料に出てきた関係者に直接当たるべきだろう。探偵の仕事をある程度トレースする作業である。聞き込みも繰り返したいが、プロが1カ月かかって大した成果を上げられなかったことを、記者が本業の合間に片手間でしてもしょうがない。地域で右手指のない女性の存在が知られていたかどうかぐらいは、ちょっと商店街を聞き込むだけで手応えがわかるだろうし、それでよしとすべきと思った。

武田惇志、伊藤亜衣『ある行旅死亡人の物語』(毎日新聞出版)

聞き込みで力を入れるとするなら、やはり元勤務先の製缶工場だろう。探偵は経営者一家を追おうとして失敗したようだが、経営者にこだわらず従業員ではどうか。誰か関係者を一人、見つけられたら十分なのだ。女性はなぜ労災事故に巻き込まれたのか。それが孤独な生活を送るようになったきっかけなのか。女性には夫がいたのかどうか。なぜ労災支給を打ち切ったのか。そのあたりは、かつての同僚に聞けばわかるはずだろう。

また、「田中竜次」さんの勤務先となっていた富士化学紙工業も気にかかる。警察の照会では虚偽の勤務先だったそうだが、それも間違いないのかは自分の目で確かめてみたい。最も、正攻法で企業に電話しても取り合ってもらえないだろうから、1980年代に在籍していた社員を探し出す必要がある。

写真類に関しては、一度伊藤と細かくチェックして、画像の中に何かしらの手がかりが写り込んでいないかを徹底的に洗うべきだろう。警察も探偵も見逃がしている情報が隠されているかもしれない。

突破口となりうるのは「沖宗」の印鑑

そして最後に、「沖宗」の印鑑だ。この姓の謎については、警察は広島県・広島市への問い合わせをしているのみで、探偵は全く手をつけていない。突破口があるとしたら、おそらくここだろう。珍しい姓なのだから、地域の印鑑業者を回ることも有効そうだ。

「沖宗」の印鑑(出所=『ある行旅死亡人の物語』)

「沖宗」姓の人物を電話帳から全部拾って、電話することも面倒だが不可能ではない。ただその場合、相手に不審がられて嘘をつかれたり、取材拒否にあったりしたら元も子もない。電話では嘘をつかれているかどうかよくわからないし、一方的に通話を切られたらそれまでなのだ。まずは何らかの方法である程度、女性との血縁関係がありそうな人物を絞り込んでいき、直接取材を敢行する必要があるだろう。

警察署、市役所、弁護士、家庭裁判所、そして探偵。多くの人の手を経て、なお身元が判明しない「田中千津子」さん。調査者の末席に私たち記者も加わることになった。

参考記事:47NEWS「現金3400万円を残して孤独死した身元不明の女性、一体誰なのか(前編) 『行旅死亡人』のミステリーを追う

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