円安要因は少しずつ解消されているが…
2021年3月以降、ステージ1の価格は上昇基調で推移した。時間の経過とともに、ステージ2以下の区分の価格も上昇した。原材料、中間財、最終消費財という順番に徐々にコストは転嫁されている。わが国の消費者需要が弱いため価格転嫁が難しいのではなく、企業は自助努力を重ねつつ徐々に価格を川下に転嫁した。さらにウクライナショックの発生後はステージ1(原材料)価格が跳ね上がった。それ以降、原材料や中間財レベルの企業物価と消費者物価の乖離が、一段と大きくなっている。
総平均ベースの企業物価指数と消費者物価の推移を比較すると、一見、価格転嫁は進んでいるように見える。ただ、中間需要の階層ごとに物価の推移を確認すると、依然として価格転嫁は不十分である可能性は高い。今後、企業の価格転嫁が進むと、消費者物価の上昇をさらに勢いづかせる可能性もありそうだ。
10月下旬以降、外国為替相場ではドルの上値が抑えられ、円売りのモメンタム(勢い)はいくぶんか抑えられた。コスト上昇の中の円安部分は少しずつ剝落するとみられるものの、11月中旬の東京都区部の消費者物価の推移をみる限り、価格転嫁を急がなければならないと考える企業は、むしろ増えている可能性がある。
賃金を上げるために労働市場の改革が急務だ
9月まで6カ月連続で実質賃金は減少した。来年の春闘ではベースアップ分を含め5%程度の賃上げが目指されているものの、食品などの値上がりはそれを上回る。世界的な景気後退リスク上昇によって、持続的にわが国の賃金が上昇する展開も予想しづらい。家計の生活負担増加が懸念される。
賃金上昇が進まない要因の一つに、労働市場など構造改革の先送りがある。1990年代以降、わが国はバブル崩壊による経済の長期停滞、不良債権問題の深刻化、またグローバル化の加速による国際分業体制の確立と中韓台など新興国企業のキャッチアップに直面した。
その中で、企業はITなど成長期待の高い分野に経営資源を再配分するよりも、既存のビジネスモデルを守ることを優先した。それに対して従業員側は賃金増加よりも、雇用の安定を重視した。結果的に、企業の成長期待は高まりづらくなり、約30年間にわたって賃金は伸び悩み気味だ。