あるグループには、評価に参加した人は25%の確率で100ドルが当たる宝くじをもらえるという条件が示された。この宝くじは動機づけとして効果があり、参加率は約20%上がった。宝くじを動機づけとして使うときには、細部の設計が重要になる。自分も当たっていたかもしれないと思わせると、宝くじへの関心は高まるだろう。
「罪悪感のない喜び」でリサイクル量が35%増えた
オランダ政府はこの原理をとても効果的に使っている。オランダの公営宝くじの一つは、郵便番号がベースになっている。自宅住所の郵便番号が当選したと発表されれば、くじを買ってさえいたら賞金が当たっていたかもしれないのにと悔やむ。このアイデアは人の後悔の念を刺激するものだ。
宝くじは、正の強化を与える手段の一つにすぎない。宝くじに効果があるのは、人は賞金が当たる確率を高く見積もるからである。
もちろん、正しいことをする人に現金を与えてもよいのだが、金額が少なければ、逆効果になりかねない。(台湾のキャンペーンの賞金総額が、ふんを袋に入れてもっていった飼い主全員で頭割りされていたら、1袋当たり約25セントになっていた計算になる。25セントのためにわざわざ袋をもっていくだろうか)。
宝くじにかわる選択肢になるのが、マイレージ型の報酬プログラムだ。貯めたポイントをなにか楽しいものと交換できる。人は現金よりもタダでもらえるものに引きつけられることがある。お金目当てだと後ろめたさがあるが、無料の商品と交換するなら「罪悪感のない喜び」という希少なものが得られるからだ。
このような報酬システムは、イギリスでリサイクルを促進するのに使われて成功を収めている。ロンドン郊外にあるウィンザー・メイデンヘッド王室特別区には、リサイクルしたものの重さに応じてポイントがもらえる報酬プログラムがあった。
貯まったポイントを利用して地域のお店で割引を受けられる。その結果、リサイクル量は35%増えた。
新型コロナ対策でも「ナッジ」が生きた
パンデミックは楽しいものではないが、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相はすばらしいユーモアのセンスの持ち主で、新型コロナウイルスとの闘いに楽しさを吹き込んでみせた。
パンデミックの最中、首相は厳しい外出制限を課すと発表した。ただし、イースターバニーには制限はかからないし、歯の妖精も仕事を続けられる。首相は記者会見の場で国民にそう伝えた。
アーダーン首相はニュージーランド国民を笑顔にしながら、新型コロナウイルスの根絶につながる行動をとるようにナッジし、ときに命令したのである。
ここでの教訓はシンプルだ。「物事は楽しくできるようにする」。そして、なにが楽しいかわからないなら、それは人生を十分に楽しんでいないということである。
(出典)
1. Maria Yagoda, “Singapore Hawker Stands with Michelin Stars,” Food & Wine, August 20, 2018, https://www.
foodandwine.com/travel/singapo
2. “Volunteer and Job Opportunities,” Mark Twain Boyhood Home and Museum, https://marktwainmuseum.org/
volunteer-employment/.
3. “Speed Reduction Measures-Carrot or Stick?” ITS International, https://www.itsinternational.c
4. Richard H. Thaler, “Making Good Citizenship Fun,” New York Times, February 13, 2012, https://www.nytimes.com/2012/02/14/opinion/making-
html.
5. Emily Haisley et al., “The Impact of Alternative Incentive Schemes on Completion of Health Risk Assessments,”American Journal of Health Promotion 26, no. 3 (2012): 184–8.
6. Thaler, “Making Good Citizenship Fun.”