実際に、この完全版に取り組むかどうかを決めるときには、あるシンプルなルールにもとづいて判断することにした。そのプロセスが楽しいとき、かつそのときにかぎり、やることにする。
宝くじで「スピード違反」と「犬のふん」が減った
ピアノ階段は楽しいが、実用性には欠ける。そこでファン・セオリー・コンテストを企画し、広くアイデアを募集した。コンテストで最優秀賞に輝いたのが、正の強化と負の強化の両面から安全運転をうながそうとするアイデアである。
具体的に説明しよう。まず、スピードカメラが道路を走行する車の速度を測る。スピード違反をしたドライバーには罰金が科されるが、速度制限を守ったドライバーは宝くじがもらえる。そしてその宝くじの賞金は、スピード違反の罰金から支払われるという仕組みである。このアイデアを時限的に試したところ、有望な結果が得られた。
この例は人間の重要な行動特性を示している。そう、みんな宝くじが大好きなのだ。一部の政府がすでにこの知見を活用している。とりわけ興味深いのが、台湾の新北市の例だ。
新北市は飼い主に犬のふんを後始末するようにうながそうと、宝くじキャンペーンを実施した。犬のふんを袋に入れて所定の施設にもっていくと、袋と引き換えに金塊が当たるくじがもらえる。
犬のふんが文字どおりの金(ゴールド)になるというわけだ。1等賞は約2000ドル相当の金塊だった。市によれば、キャンペーン期間中は路上に放置されるふんが半減したという。
税金逃れ対策、健康維持にも効果を上げた
中国本土では、宝くじが別の目的で広く使われている。税務コンプライアンスだ。世界の多くのところがそうであるように、中国は圧倒的な現金社会であり、町の食堂のような小さな店のあいだでは、売り上げを抜いて消費税を逃れる行為が横行している。
この問題を撲滅しようと、政府は特別なレシートを用意した。店で代金を支払うともらえるレシートに、スクラッチくじが印刷されているのだ。じつに賢い。こうすればレシートをもらうインセンティブが客に与えられ、その取引が政府に報告されるようになる。世界各国の財務大臣はこのことを覚えておくべきだ。
宝くじは、健康への意識を高める効果的な動機づけとしても使えるだろう。ペンシルベニア大学の心理学者で社会科学者のケヴィン・G・M・ヴォルプらの研究グループが、医療管理会社の従業員を対象に、健康リスク評価への参加をうながす実験をした。