奪われた現金の行方は明らかにならなかった
あまりの不自然さから、公判廷で弁護人が問うと、吉田は「私が『現金を盗まれた』と言っているのを、タカヤマは、嘘だと疑ったのではないでしょうか」と供述した。
タカヤマとしては、現金を奪われることなどあるはずがないと考え、それにもかかわらず「奪われた」などと吉田が言っているのは、吉田が現金を持ち逃げしようとしているか、あるいは使い込んでしまったことの言い訳をしていると疑った、と吉田は推測したわけだ。
タカヤマとしてはまさか実際には通報はしないだろうとたかをくくって「110番通報しろ」と言っただろうに、吉田は通報し警察へ連行され、犯行の全てを自供した。その予想外の吉田の行動にタカヤマは驚愕しかなかっただろう。ただ、闇金が奪ったとされる現金の行方は公判廷で明らかにされることはなかった。
犯罪に手を染め始めたと同時期に債務整理の準備もしていたのだが…
不可解な点は他にもある。吉田が現金を闇金業者に奪われるに至った経緯だ。
大阪市内へ多額の現金を運んだ吉田は、再三、返済を求めてくる闇金業者に、滞在していたビジネスホテルから連絡を取っていた。吉田は闇金業者に「この仕事が終わったら返済のめどが立つ」「いま現金が手元にある」などと明かしたという。
公判で裁判長が吉田に問うた。
——なぜ闇金業者に自分の犯罪の話をしたのか。
「(なぜ話したのか)分からない」
——あまりに無防備だ。用心した方がいい。
裁判長からの苦言に、吉田はうつむくばかりだった。借金を重ね、犯罪に手を染め始めるのと時期を同じくして、吉田は無料で法律相談が受けられる法テラスに赴き、弁護士と債務整理について話し合っていた。しかしその一方、同時期にツイッターで「闇バイト」と検索し、特殊詐欺の末端を担い、闇金業者からの借金をさらに増やしていたという。
法テラスに相談した理由を「悪いことをやっていると分かっていたので、少しでも早く足を洗いたかった」と説明した吉田。借金を整理すれば犯罪を続ける必要がなくなると考えていたというが、その法律相談も、大阪で犯行を自供したことで全てが頓挫した。
裁判員裁判が連日続く横浜地裁の公判で、長髪だった頭を途中から丸坊主に刈り上げた吉田は、最終陳述でこう話した。
「罰を受け、一生忘れずに償っていきます。被害者の(けがの)回復を祈り続けます。両親や友人からの手紙で前向きな言葉をもらいました。支えてくれる方々を裏切ることなく生きていきます。くじけそうになることもあるかもしれませんが、気を引き締めていきます」
検察官は懲役9年を求刑し、横浜地裁は2022年2月、懲役7年の実刑判決を言い渡した。