「それ、アポ電(強盗)じゃないですか?」
同じやり方で11月24日に横浜市港北区の男性(当時93歳)から170万円、12月10日には群馬県太田市内で現金25万円とカードを騙し取り、このカードを使ってATMから50万円を引き出した。
同15日にも横浜市港北区の女性(当時73歳)からキャッシュカードを騙し取って50万円を引き出した。さらにその3日後の18日には京都府宇治市内で別の共犯者が騙し取った男性(当時82歳)のキャッシュカード2枚を使い、コンビニで現金計92万円を引き出した。被害総額は約2カ月で500万円に上っていた。
指示役のタカヤマから、これまでの特殊詐欺とは異なる提案を受けたのは、それから間もなくのことだった。現金があると見込まれる民家に警察官を装って侵入し、家人が抵抗したら手錠をかけて現金やカードを奪う――。
警察官を装うのは今までもやってきているが、今回の計画は詐欺ではなく、強盗ではないのか。不審に思った吉田はタカヤマに聞いた。
「それ、アポ電(強盗)じゃないですか?」
「アポ電強盗」とは、2019年ごろから社会問題になった手口のひとつ。事前に金融庁や自治体の職員、警察官などを装って民家に電話をかけ、家に現金がいくらあるかなどを確認した上で強盗に押し入るという凶悪な手口で、同年2月には都内のマンションで80歳の女性がアポ電強盗犯に襲われ殺害される事件が起きていた。
タカヤマは言った。
「アポ電ではない。警官だと言って騙して、信じさせるんだ」
借金に追われている吉田に、タカヤマは畳みかけた。
「手っ取り早く、大きく稼ぐには、タタキ(強盗)しかない」
吉田は強盗を選んだ。
「母親がどうなってもいいのか!」と度々脅されていた
神奈川県警保土ケ谷署で逮捕される前、最後の犯行が前述した横浜市保土ケ谷区での緊縛強盗だった。この強盗事件で吉田は、共犯者のまとめ役と監視役、被害品の運搬役を兼ねていて、現金1200万円とキャッシュカード20枚を奪い、さらにそのカードから約443万円を引き出した。起訴された事件だけでも、被害総額は2100万円に膨れあがっていた。
現場での指揮や見張りを担った吉田ではあるが、氏名不詳の指示役の男タカヤマから脅迫されていたという。特殊詐欺の仕事を始める際、顔写真を送るように言われ、実家の住所も伝えていた。犯行を重ねる中で、嫌そうなそぶりを見せると「母親がどうなってもいいのか!」と度々脅された。
緊縛強盗で奪った金を大阪市内へ運ぶようタカヤマから命令された吉田だったが、その金が、ビジネスホテルで闇金業者に盗まれてしまった。そのことをタカヤマに相談すると、タカヤマは「110番通報しろ」と言ったという。吉田が関与した緊縛強盗事件や、特殊詐欺事件が発覚する恐れもあるのに、なぜ、通報しろと言ったのか――。