強気姿勢が一変、中国で1割近く値下げする事態に
需要の伸び悩みもテスラを苦しめる。強気の値上げを繰り返してきた同社だが、ついに需要の後退を受け、価格を見直さざるを得ない局面を迎えたようだ。
ニューヨーク・タイムズ紙は10月下旬、テスラが中国での販売価格を最大で1割近く引き下げたと報じた。モデルYの新価格は28万8900元となり、従来価格よりも9%値引きされている。モデル3は26万5900元となり、こちらは5%の値下げだ。
中国では多数の自動車メーカーがしのぎを削っており、テスラの存在感が必ずしも突出しているわけではない。また、こうしたメーカーは価格競争力を武器にEVモデルでヨーロッパ市場に殴り込みをかけるなど、海外進出を積極的に進めている。
テスラ値下げの報は、並み居る中国メーカーを前に同社が弱気の姿勢を示したとも受け止められたようだ。こうした動きは、時期をみては値上げ攻勢を繰り出していた過去のテスラと正反対の動向となる。
ニューヨーク・タイムズ紙は、「この値下げにより投資家たちのあいだでは、鈍化する経済成長と激化する競争を背景に、EV市場における同社の収益性および優位が脅かされたのではないか――との懸念が再燃している」と述べる。
米CNNは、今回の値下げに関する報道を受け、テスラ株が米株式市場の時間外取引で4%近く下落したと報じている。
「走り出してから考える」というイーロン・マスクの非常識
失敗繰り返しながら前進する手法は、テスラを率いるイーロン・マスク氏の持ち味でもある。
氏が経営する宇宙開発企業のスペースXに関しては一時期、同社のロケットが自動着陸に失敗する映像が繰り返し報道されていた。一方、そのたびに同社は修正を加え、着々と技術力を高めた。失敗と批判を恐れない姿勢を強みとし、いまでは民間宇宙企業として一定の評価を築き上げている。
しかし問題は、失敗が即座に人命に関わるクルマ市場という戦場で、同じ手法が通用するかどうかだ。5人死傷した中国での事故がもしも車両不具合によるものであれば、「次はきっと成功する」といった弁明は通用しないだろう。
こうした安全性の問題を筆頭として、24ブランド中19位に甘んじている信頼度スコアや需要減退への対処など、課題は山積している。
幾度となく危うさが指摘されてきたテスラの経営は、ここへ来て大きな曲がり角に差し掛かったといえよう。マスク氏お得意の「まずは走らせてから問題に対応する」という見切り発車の手法が、大きなしわ寄せを生んでいる形だ。「走り出してから考える」で突進してきたテスラだが、ブレーキの利かなくなった暴走車両は、テスラの未来に警告を与えているかのようだ。