トウガラシ、ショウガで体は温かくならない
「体を温める方法」として広く認識されてしまっている誤解をときたいと思います。「辛いものを食べると体温が上がる」という説です。
確かに、トウガラシなどの辛いものを食べると汗が出ます。舌が熱く感じます。ですから辛いことを英語では「hot」といいます。
人間の味覚には、「甘・酸・辛・苦・塩」の五味があるといいます。しかし、実際に味覚を感じる舌の味蕾を調べてみると、「甘・酸・旨味・苦・塩」の受容体はあるのですが、辛味の受容体は見当たらないのです。
この謎を解明したのが、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のデイヴィッド・ジュリアス教授です。「温度と触覚の受容体の発見」で2021年のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
トウガラシの辛さを感じるのはTRP(トリップ)チャネルと呼ばれる痛覚受容体でした。痛覚受容体は皮膚・粘膜にくまなく存在します。トウガラシを食べたときに、舌が感じていたのは辛さではなく痛みだったのです。
それを脳は辛さや熱さと感じていたのでした。また、体を温めるにはショウガがいいとよくいいます。ショウガ湯を飲んで体が温まったと感じるのもTRPチャネルのせいです。
このように、「トウガラシやショウガで体が温まる」と私たちが感じていたのは錯覚で、痛みだったということになります。また、ラーメンを汁まで飲み干すと汗をかきます。これは熱い汁を飲んだから体温が上がったのではなく、栄養素を消化分解するとき、エネルギーを消費して熱を発しているのです。
これを「食事誘発性熱産生」といい、冷たいものを食べても体温は上がるのです。逆に温かくてもただのお湯の場合は、エネルギーを生まないので体温は上がりません。体を温めようと何か特別なものを飲食することに意味はない、と私は考えます。
水シャワーでミトコンドリアモードになる
水シャワーで体表温を完全に冷やす必要はありません。ブルッと体が震えればOK。一瞬でも首筋に冷水がかかれば、体がぽかぽかしてきます。
これは脳の体温調整中枢が首筋にあるからです。寒いときに「頭寒足熱」をおすすめするのも、この首筋の体温調節中枢に寒冷刺激を与えて深部体温を上げるという意味です。
体温調節中枢が働けば、ミトコンドリアモードになり、酸素とともに内臓脂肪が燃えて深部体温が上がる仕組みです。
ただ、水シャワーをする勇気をなかなか持てない人もいると思います。冬はヒートショックの心配もあります。ヒートショックとは、気温の変化によって血圧が乱高下げし、心臓や血管の疾患を引き起こすこと。とくに10度以上の温度差のある場所に移動したときには注意が必要です。
冬は脱衣所や浴室をあらかじめ温めておきましょう。また、高齢の人、心臓や血管に病気のある人、糖尿病の人、そして冷たい水をかぶる勇気が出ない人は無理せず、次に紹介する簡易的な方法「プチ水シャワー」を行ってみてください。
まずは湯上がりに、ひじから先、ひざから下にシャワーで水をさっとかけます。次に、その水で手ぬぐいやタオルを絞って、全身を拭きます。この方法でも寒冷刺激を加えられます。そうして体をだんだんと水シャワーに慣れさせていくとよいと思います。
冬になると、手足が冷たくて眠れなくなる人は、ベッドに入る前に風呂場で足首と両手に水をかけてみてください。その後、乾いたタオルで乾布摩擦すると、足が冷えなくなるはずです。
または会社に出かける前に、風呂場で足首と両手に水をかけてみてください。足がぽかぽかするはずですよ。