物価は上昇しているのに収入は増えそうにない
今後、円安傾向が定着すると考えれば、円ではなくドルなどの「外貨」で稼ぐというのは至極当然の考えだ。座して貧しくなっていくのを待つくらいなら、出稼ぎに行く方がいいと考える人が増えるのも当然だろう。それを伝えるテレビ番組は、そうした人々を増やしていく役割を担いつつある。
それほど、「日本人の貧しさ」を感じる人たちが増えている。円安で輸入物価はどんどん上昇し、遂に消費者物価指数も前年比の上昇率が3%に乗せた。黒田総裁はそれを「一時的」だとして来年の物価上昇率は鈍化して落ち着くとの見方を示しているが、多くの人たちは今の物価上昇はそう簡単には止まらないと感じている。
企業間のモノの売買価格である「企業物価」の指数を見れば、すでに10%近い上昇になっている。それが本格的に最終価格に転嫁されるようになれば、消費者物価はさらに上昇していくだろうと見ているのだ。
物価上昇の一方で、収入は増えそうにない。岸田文雄首相は、経済の好循環で「賃上げを実現する」と声高に語っているものの、このところの物価上昇に給与の伸びが追い付いていない。物価を勘案した「実質賃金」は2022年4月以降、6カ月連続でマイナスとなっている。名目賃金はわずかながらも上昇しているが、物価上昇に打ち消されているのだ。庶民感覚としては生活が日に日に苦しくなっていっているわけだ。
「7割の企業が増益」給与を支払う側は好調だが…
なぜ、給与が増えないのだろうか。
給与を支払う企業の業績は好調だ。前年度(2022年3月期)の上場企業の決算では、全体の70%の会社が増益となり、3分の1の会社が最高益を更新した。最終利益の合計は約36兆円と、前の期に比べて83.9%も増えた。円安によって輸出企業の業績が好転したことが要因で4年ぶりの増益だった。
今年度は世界的なインフレに加え、日本経済も物価上昇圧力で先行きに暗雲が漂っている。それでも、9月中間決算は過去最高の利益水準を維持しそうで、今年度通期でも過去最高を更新するのが確実な情勢になっている。もちろん、新型コロナウイルスの蔓延による自粛などで経済活動が停滞していた昨年に比べて、売り上げが大きく回復してきたことも原動力になっている。
ところが、企業は従業員の給与を大きく増やす行動には出ていない。
日本経済は四半世紀にわたってデフレが続いており、ほとんどの経営者がインフレを知らない世代に代わっている。デフレの中で、いかに人件費を抑えるかに注力し、そうした合理化努力が認められて出世した今の経営者には、「インフレに対応して賃上げする」という観念がまったくない。3%の賃上げは十分過ぎる賃金引き上げだと感じてしまうのだ。