なぜ出稼ぎ日本人が注目されているのか

「海外に行ったら同じ仕事で年収が数倍になった」。そんなサクセス・ストーリーがテレビの情報番組などでしきりに流れるようになった。

世界各地でニーズの高い寿司職人や和食の料理人だけでなく、美容師や看護師など国内では年収がせいぜい500万円程度の職種でも、米国やオーストラリアなどで働けば、1000万円を大きく超す年収を手にできるというのだ。先日はテレビ朝日のワイドショーが「日本で年収300万円だった寿司職人が、アメリカで年収8000万円を稼ぐようになった」といった驚きの事例を報じて、話題を集めていた。

寿司職人の手元
写真=iStock.com/Chadchai Krisadapong
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もともと欧米の賃金水準は日本に比べて高いうえ、過熱する景気による人手不足で現場に近い職種の賃金が大幅に上昇している。それに加えて為替の円安が、円建てで見た給与の増大に拍車をかけているわけだ。

これもワイドショーの格好のネタになっているが、日本で1000円の大戸屋のしまほっけの炭火焼き定食が、米国では31ドル。チップまで入れると5000円を超えるというのが話題沸騰だ。物価に着目して為替水準を見る「ビッグマック指数」ならぬ「大戸屋指数」とでも言おうか。この物価ならば給与が数倍になっても不思議ではない。

投資家の“巻き戻し”でいったん円高に転じたが…

これまでも日本と欧米の給与格差は存在してきた。

日本で働くにしても外資系企業の給与は国内企業よりはるかに高い。だが、そうした話は、一部のトップエリートの話で、庶民には関係ないと思われてきた。日本のプロ野球選手が米国のメジャーリーグのチームに移籍したとたん、数倍ではきかない報酬を手にするのを見ても、別世界の話だと思ってきた。

それが、寿司職人や美容師など身近にいる職業人も海外に行けば高額報酬を手にできると聞いて、がぜん、人々のマインドセットが変わりつつある。

為替が一時1ドル=150円を付けたことで、政府・日銀が本腰を入れてドル売り円買い介入を行っている。何とか円安を止めようと必死になっているわけだ。「円安はプラスだ」と言い続けてきた黒田東彦・日銀総裁もさすがに急激な円安はマイナスだと言い始め、為替介入に踏み切った。介入をきっかけに、ドルを買っていた投資家がいったん利益を確定する「巻き戻し」が起きたこともあり、1ドル=138円台まで円高方向に動くと、黒田総裁も「大変結構なこと」だと留飲を下げていた。

だが、残念ながら、日本円が今後、長期にわたって強い通貨になっていくと考える人は少ない。人口が減り、経済力が落ちていく中で、中長期的な円安傾向は変わらないと見る向きが多いのだ。