ミックスルーツのアスリートが増えている

陸上競技をメインに取材している筆者は、10年ほど前からいわゆる「ハーフ」(以下、ミックスルーツと記述)選手が急増しているのを実感している。2011年の全日本中学校選手権大会では女子の個人9種目中、4種目でミックスルーツ選手が優勝した。

今季の日本ランキング10傑には、男子100mでサニブラウン・アブデル・ハキーム(タンブルウィードTC)、デーデー・ブルーノ(セイコー)。同400mでは、ウォルシュ・ジュリアン(富士通)、中島佑気ジョセフ(東洋大)、メルドラム・アラン(東農大)がランクインしている。今夏のオレゴン世界陸上で4位に食い込んだ男子4×400mリレーはウォルシュと中島が出場。入賞メンバーの半数がミックスルーツ選手だったことになる。

これまで数々のミックスルーツ選手を取材してきた。彼らの場合、日本で生まれ育つか、幼少期に来日しており、日本語には不自由していない。一方で、幼い頃に両親が離婚しており、父親の顔どころか、国籍を知らないということもある。なかには親の国籍については、「言いたくない」と話す選手もいた。見た目でイジメや差別を受けた経験のある選手も少なくないようだ。

有名ミックスルーツ選手への誹謗中傷

いじめる側と、いじめられる側。前者が軽い気持ちで発した言葉だとしても、後者にとっては深い傷となることがある。理解度が未熟な小学生の場合は、差別的な発言があったとしても仕方ない部分があるだろう。しかし、大人になっても、見た目で“NGワード”を連発しても平気な者がいるようだ。

最近ではバスケットボール女子の東京五輪銀メダルメンバーで、現在はギリシャリーグでプレーするオコエ桃仁花(エレフテリア・モシャトウ)の言葉が話題になっている。オコエはナイジェリア人の父を持ち、東北楽天ゴールデンイーグルスに所属するオコエ瑠偉選手の妹。人種差別というべき内容のダイレクトメッセージの画像を添付したうえで、「もう心が麻痺するくらい、慣れたよ」とツイートした。

写真=AFP/時事通信フォト
2022年9月27日、シドニーで行われた女子バスケットボールワールドカップ・グループBの最終日、オーストラリア対日本戦で、日本のオコエ桃仁花(富士通レッドウェーブ・当時)がドライブ

その後、「お母さんとお父さんが出会い、今私はここにいる。誰に何を言われようとも、どんな肌の色をしていても、私は愛される価値がある。目の前のあなたも、横のあなたも、誰かの大切な人。言葉を大切に。心を大切に。皆様からの温かいメッセージに、日本人であることに誇りをかんじます。ありがとう」というツイートには11万以上の「いいね」がついた。

NBAウィザーズの八村塁の弟でBリーグ群馬の八村阿蓮も自身と兄を中傷する人種差別的なDMが「毎日のように」届くことを明かしている。八村兄弟はベナン人の父を持つ選手だ。阿蓮は、アフリカ人男性と結婚する日本人女性を理解できないという趣旨のSNSに対して「誹謗ひぼう中傷を無視することは簡単だけど、僕たちが日常生活で受けているこの現状を発信することはとても大事なことだと思います」とSNSで発言。日本のスポーツ界でも「人種差別」を訴える動きが出始めている。

著名人に対して、安全な場所から石を投げつける行為は、本当に最低だ。どうしても主張したいなら、実名をさらしたうえで、堂々と発言すべきだろう。それができないなら、自分の心のなかにしまっておくしかない。