陸上やバスケットボールなど、スポーツ界にミックスルーツの有力アスリートが増えている。スポーツライターの酒井政人さんは「そうした選手に対して、SNSで誹謗中傷や人種差別ととれる発言が相次いでいる。“多様な日本人アスリート”を応援するための準備をするべきだ」という――。

※本稿には、人種差別の現状を報道するため、差別・中傷の表現が含まれています。

指差し手で囲まれて追い詰められている女性のイラスト
写真=iStock.com/rudall30
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1998年FIFAワールドカップを制したのは地元・フランスだった。この優勝はスポーツ界にとって、ひとつのターニングポイントだったといえるかもしれない。

当時の主力メンバーは、アルジェリア系のジダン、アルゼンチン系のトレゼゲ、ガーナ生まれのデサイー、両親がカリブ海出身のアンリら。いわゆる「ダイバーシティ(多様性)の勝利」だったからだ。

移民大国として知られるフランスにはさまざまなルーツを持つ選手がいる。2018年FIFAワールドカップで20年ぶり2度目の優勝を果たしたとき、純粋なフランス人はVメンバー23人中4人しかいなかった。

そして日本のスポーツ界にもダイバーシティの波が確実に押し寄せている。

「マテンロウ」アントニーの鉄板ネタを笑っていいのか

お笑いコンビ「マテンロウ」のアントニーという“ハーフ芸人”がいる。アフリカ系アメリカ人の父を持つアントニーは子供の頃かカラダが大きかった。少年野球で打席に立つと、相手チームの監督が外野手を下がらせてレフトの選手が川に落ちたことから「レフト殺し」と呼ばれたというネタを何度も披露し、笑いを誘っている。

そんな鉄板ネタを持つアントニーは3歳のときに父親が亡くなったこともあり、英語が得意ではない。英会話スクールで先生に間違われたというエピソードもある。新たな父親が寿司職人であるなど、芸人になり、これまでの苦悩を「笑い」に変換させてきた。ミックスルーツであることを理由にいじめを受けたことはないというが、アルバイトの面接に全く受からない時期があるなど、外見で差別を受けたこともあるようだ。

1988年に発行された赤瀬川隼の小説に『ブラック・ジャパン』(新潮文庫)がある。ソウル五輪で胸に日の丸を付けた黒人ランナーが男子マラソンで優勝するという、オリンピックとナショナリズムの問題を扱った物語だ。

作品発表10年後にFIFAワールドカップでフランスが多様性の勝利を収めるわけだが、赤瀬川隼の空想が日本でも“半分”は現実になっている。