なぜ梨泰院の通りはあんなにも細いのか

入り組んでいるのは形成史のみではない。

実際に梨泰院一帯の地形は山に近いことから坂が多く、狭い旧道で時には違法の増改築を繰り返した結果、路地が狭まっている。

また、梨泰院の全てが繁華街ではなく、最寄り駅が梨泰院駅一つしかない。そのため一部のエリアは、人通りが少なく、特に夜から深夜にかけては空洞化し「憂犯地帯」(治安が著しく悪い地帯)となる恐れが高いとされている。実際にドラッグ使用事件も多い。

撮影=プレジデントオンライン編集部
梨泰院の中心部にある細い階段
撮影=プレジデントオンライン編集部
階段の上にも飲食店が軒を連ねる

フラストレーションの発散の場としてのハロウィーン

そのような猥雑さや、ネオン看板の煌然とした非日常感とあいまって気が大きくなるのは想像に難くない。2022年11月現在、犠牲者156人中の大半が20代(103名)、30代(31名)と報じられている。

韓国の若い世代の受難は長く続いており、韓国統計庁によると2021年の20歳〜29歳代の雇用率は10代を除く全年代中、最下位の57.4%。

就職難による社会的孤立、そしてコロナ禍ときて20代の自殺率は2017年から5年連続で増加している。自殺未遂率も20代が突出して高く、中でも女性は他の世代平均約1590人に比べて4607人となっている(2020年、韓国保健福祉部調査)。

さらに、現在の20代は2014年のセウォル号沈没事件でも同世代の犠牲をリアルタイムで目撃しているだけに、「累積トラウマ」も懸念されると言われる。

30代も20代同様、雇用不安や未婚率上昇など不平等にさらされ、40歳以下の孤独死が2017年以降で約62%増加し社会問題となった。

すべての人が当てはまるとは限らないが、こうした韓国社会の熾烈な競争にさらされる中、束の間の開放感を求めて訪れていたとしたら居たたまれない。

約10万人もがとめどなく押し寄せた異常事態の影には、そうしたフラストレーションもあったのではないかと勘繰りたくなる。