トランプ支持者から見ると、バイデン支持者に数で負けたのが信じられない。つまり女性、マイノリティーと若者、それも自分たちよりも貧しい低所得者層が、自分たちをしのぐパワーを持つとは思いたくない。彼らが間違っていて、自分たちが正しい。彼らが勝つこと自体が間違っているという、男性を中心とした白人の既得権益者ならではの感情が、はっきりと見てとれる。

彼らが支持するトランプ氏のスローガン “MAGA=Make America Great Again“が「過去のアメリカに戻ろう」という掛け声であることはご存じだろう。

年配白人層が夢見る過去とは、1950年代。第2次世界大戦後、軍事力も経済力もアメリカが世界トップにおどり出た時代。しかも60年代の公民権運動の前だから、白人だけがあらゆる権利を享受し、女性は主婦か、社会に出ても秘書など男性の下で働く存在だった時代だ。

白人人口が減り続けることに強烈な危機感

80年代ごろまではそのような白人男性主導の時代が続いていたが、2000年代に入ると事情が変わってくる。バラク・オバマ氏が初の黒人大統領に就任。同性婚が合法化され、次はヒラリー氏が初の女性大統領になるか、というところまで時代が急転換した。

同じ頃発表された国勢調査結果が、多くの白人に衝撃を与える。流入を続ける移民の増加で、アメリカの白人人口は2049年までに過半数を割るという報告だ。

建国以来、圧倒的なマジョリティーであり、黒人奴隷を搾取して富とパワーを築いてきた白人にとって、これ以上のショックはないだろう。既得権力を失う強烈な危機感もあったはずだ。

すでにダイバーシティー&インクルージョンは企業にとって必要不可欠なものとなり、女性やマイノリティーを一定数経営陣に加える動きも進んでいる。映画やドラマ、コマーシャルなども、あらゆる肌の色や性別をバランスよくキャスティングするのが普通になっている。そうでなければ消費者、特に若者層にそっぽを向かれてしまうからだ。

やりづらさを代弁してくれたのがトランプ氏だった

同時にマイノリティーや女性に関する差別的な物言いは、たとえジョークであっても公の場では許されなくなった。また#metooムーブメントで、社会的地位を失うリスクも高まった。こうした動きに、取り残される思いを抱える人も少なくなかった。

そこに登場したのがトランプ氏だった。

人種やジェンダー差別発言をあからさまに行い、悪びれもしない態度はもちろん、白人至上主義者を堂々と賛美した。そのたびに人気は衰えるどころか、逆に上がっていったのである。