同時に顕在化したのが、「グレート・リプレイスメント・セオリー(great replacement theory)=人種の総入れ替え論」だ。

前出の激戦区アリゾナ州のブレイク・マスターズ候補が「民主党は移民を増やすことで、われわれ白人に取って代わらせようとしている」と発言しているが、白人社会が非白人の移民に乗っ取られるという危機感は、トランプ時代を経て世界に広がり、白人至上主義者による暴力事件につながっている。

女性議員や選管関係者には「殺す」の脅迫状が

白人至上主義者を讃えたことで、トランプ氏は、アメリカを人種ラインで真っ二つに分断してしまった。

差別に断固として立ち向かう層は、Black Lives Matter運動で抵抗したが、白人至上主義者たちの活動はますます活発化している。

トランプ氏を批判する政治家、特にマイノリティーや女性議員、選挙関係者の元には、「殺すぞ」などの脅迫状が今も連日届いているという。アジア系やLGBTQ、ユダヤ人などに対するヘイトクライムも増え続けている。

2016年6月27日、ワシントンD.C.で女性の中絶の権利を求める人々が集まり、メッセージを掲げている
写真=iStock.com/Joel Carillet
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今年の中間選挙の最大のポイントは、共和党が上下院の過半数を奪還するかどうかだが、トランプ・クローンがどれほど票を伸ばすかにも大きな注目が集まっている。

クローンが多数当選すればトランプ氏が戻ってくる

中間選挙は通常、政権与党(今回は民主党)が負けるので、共和党が優勢とされている。特に激戦州での勝利は、キングメーカーとしてのトランプ氏のパワーが健在であることを意味する。そうなれば2024年の大統領選に再び立候補する可能性が飛躍的に高まる。

一方、トランプ・クローンを嫌って民主党に票を投じる有権者もいるとみられ、「トランプ氏の推薦」という肩書は諸刃の剣とも指摘されている。仮に負けた場合は、「選挙の不正」を叫び、票の数え直しの訴えから、投票マシンの不備の追及、選挙管理スタッフへの脅迫まで、2年前と同じ泥沼の様相となることは目に見えている。

人種やジェンダー間の軋轢あつれきもさらに強まり、移民への反感を持つ人も増えるだろう。分断は縮まるどころかさらに広がるに違いない。

まさにアメリカ民主主義を揺るがすこうした混乱自体が、トランプ氏が意図するところだとしたら、彼はすでに勝っているのかもしれない。

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