噂話によって知能が極端に発達した

これはとてもよいアイデアだが、問題がひとつある。集団の誰もが同じことを考えているのだ。

こうして、「自分についての噂を気にしつつ、他人についての噂を流す」というきわめて高度なコミュニケーション能力(コミュ力)が必要とされるようになった。「社会脳」仮説では、ヒトの知能が極端に発達したのは、集団内の権謀術数に適応するためだとする。

噂話によって生死が決まる社会では、ひとびとは集団内の権力闘争(陰謀)に敏感になったにちがいない。ささいな批判に過剰に反応するのはこの名残だろうし、科学が発達した現代社会で、荒唐無稽な陰謀論にハマるひとがなぜこんなに多いのかもこれで説明できるだろう。

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「正直者がバカを見る」という難題

集団生活では、「抜け駆け」と「フリーライダー(ただ乗り)」が問題になる。

新型コロナの感染抑制策で飲食店が酒類を提供できなくなると、それでも飲みたいひとたちが「深夜まで元気に営業中。お酒飲めます」という看板を掲げた店に集まってくる。「正直者がバカを見る」とみんなが思えば、ルールなんか守ってもしょうがないというモラルハザードが生じる。

感染を抑制するには人口の7割がワクチンを接種する必要があるとされるが、ワクチンは副反応が起きることがあり、ほとんどは発熱などで数日で快癒するが、(きわめて)まれに重篤な症状を呈する。

そうなると、「みんながワクチンを打つのなら、自分がリスクを冒すのは馬鹿馬鹿しい」と“合理的”に考えるひとが出てくるかもしれない。これがフリーライダーで、一定数を超えると感染が拡がり、飲食店などが打撃を受ける。

大きな社会を維持するためには、なんらかの方法で「抜け駆け」と「フリーライダー」に対処しなければならない。これが、わたしたちの祖先が直面したもうひとつの難問だ。