不動産リスクで1億4000万人いる富裕層の生活が破綻する可能性も

【李昊】ちなみに客観的に見ても、ナショナリズムのコントロールは大きく評価できるポイントではないでしょうか。習近平政権下で愛国主義が高まったと言われますが、その一方では歴史問題で日本と衝突することはなくなりましたし、暴力的な反日デモも起きていません。政権にとっても厄介なナショナリズムの暴発について歯止めが利くようになったのは一つのポイントです。

【梶谷】ただ、現時点でその大きさを推し量るのは難しいですが、経済の構造上、過去の成功をも吹き飛ばしかねないリスクが忍び寄っているのも事実です。

21世紀の資本』(みすず書房、2014年)が世界的なベストセラーとなったトマ・ピケティの新刊『イデオロギーと資本』では中国の格差拡大を指摘しています。興味深いのは資産の上位10%と下位10%の比較ではアメリカ並の超格差社会になっているのに、上位下位1%の比較ではそこまで格差は開いていない点です。

つまり、超富裕層が資産を独占しているというよりも、上位10%(14億人の10%は1億4000万人!)という、かなりボリュームのある層の資産が増えて格差の原因になっているわけです。

この上位10%とはつまりは大都市でマンションを持っている人々です。中国の不動産は2003年頃から上昇が始まり、その後も経済成長率をやや上回る程度の安定したペースで値上がりが続きました。大都市のマンションを手に入れられれば、中国の経済成長の恩恵を受けることができ、築いた資産によって老後も安泰。一方でマンションを持たなければ取り残されるという二極化が起きています。

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この格差の解消も難しいですが、直近では不動産価格の先行きが不透明化しつつあります。もし不動産価格が下落するようなこともあれば、上位10%の人々のライフプランがめちゃくちゃになってしまう。次の5年はこのリスクに直面します。

「マンションは投機対象ではない」をスローガンに掲げてきたが…

——「マンションは投機対象ではなく住むためにある」をスローガンに大都市の不動産価格抑制を目指してきたのは習近平政権です。それで本当に価格が下がりそうになったらピンチっていうのはちょっと……。また、大都市ではなく郊外や田舎の都市化を進めたのも売れないマンション在庫につながっています。

【梶谷】大都市への人口集中の抑止、地方の新型都市化という政策は失敗だったと評価せざるを得ないでしょう。50万人から100万人規模の都市に人口を集めようとはしたものの、サービス業がなかなか発展せずに、都市のメリットを発揮できていません。

地方、郊外の新型都市建設とほぼ同時期に提唱されたのが一帯一路です。中国が世界の新秩序を作ろうとしているといった受け止められ方をしている一帯一路ですが、根本は経済的要因に根差しています。中国国内の過剰な資本、生産能力を大都市に集中させていてはいけない。そこで別の出口として、地方や郊外の都市化とともに、海外のインフラ建設に乗りだしたのです。