沈黙を守りアシストに徹した胡錦濤

【李昊】国がさまざまな問題を抱えている時に、「現状を変えるために強いリーダーが欲しい」という空気が生まれるのは中国だけではありません。日本の第2次安倍晋三政権もそうしたムードに後押しされて、官邸への権力集中という政治体制の組み替えへとつながりました。

習近平総書記がここまでの権力を手にしたのは彼個人の力ではなく、中国共産党内部からの強い支持があったためだと考えています。その中でももっとも決定的な支持者となったのは胡錦濤前総書記です。胡錦濤は2002年に総書記となりますが、江沢民元総書記の介入により権力の掌握が進まず苦労しました。

胡錦濤氏
胡錦濤氏(写真=Dilma Rousseff/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons

2012年の党大会のあと、胡錦濤は全ての役職を習近平に譲り、沈黙を守りました。表だってはもちろんのこと、リークや噂話のレベルでも体制批判の動きを一切見せていません。習近平にとってはなによりもありがたいアシストだったはずです。

【水彩画】胡錦濤は引退時に「裸退」とやゆされました。江沢民は総書記からは退いたものの、中央政治局常務委員に子飼いを複数送り込み、いわば院政を敷いていました。今度は胡錦濤が院政を敷く番だと思ったらすべてのポストから退き裸で辞めていった、なんたる甲斐性なしか、と嘲笑されたわけです。

ただ、今振り返れば、習近平をアシストするためだったと言われれば納得できる部分はあります。胡錦濤がどう考えていたかはともかくとして、少なくとも習近平にとってはプラスに働いたことは間違いないでしょう。

そもそも総書記が10年で交代するというルールをきっちり守ったのは胡錦濤だけ。江沢民は天安門事件後で失脚した趙紫陽の後を引き継いだ期間があるので、13年もの間、総書記の座にありました。その意味では2期10年のルールは絶対的なものではなく、状況によって変えうるものであったわけです。

習近平によって中国は変えられてしまったのか

【梶谷懐(神戸大学教授)】英語圏のメディアでは「習近平のパーソナリティーによって中国はがらりと変わり、独裁が強化された」との論調が主流ですが、ややミスリーディングではないではないでしょうか。まず江沢民、胡錦濤、習近平という三代の総書記の方針、政策には、大きな共通項があります。

その共通項とは、中国共産党への「新しい社会階層の取り込み」です。市場経済導入後に新たに生まれた企業家、中産層、自営業者などを中国共産党に取り込んでいくことが必要でした。江沢民は企業家の取り込みを進め、胡錦濤は農民の税金免除や社会保障など再分配強化で、発展から取り残された人々の取り込みを図ったわけです。

習近平も市場の効率を高める改革を進めており、そこは前政権からの継続性があります。異なるのは、富裕層を叩く「共同富裕」で庶民の不満を和らげようという姿勢が目立つところでしょう。それぞれアプローチの違いはあれど、目指す目的は共通している。だから胡錦濤も習近平の邪魔をしなかったのではないでしょうか。