複数の派閥とつながりがあるため、誰と親密なのかが見えにくい
【李昊】複数の派閥とつながりを持つこともあります。韓正副首相、中央政治局常務委員はまさにその典型です。江沢民の地盤とされる上海でキャリアを積んでいるという意味では、江沢民と縁があります。同時に、共産主義青年団の出身で、共青団の上海市委員会のトップまで務めています。そして習近平が上海市トップだった時にナンバー2として支えました。上海閥、団派、習近平派と3つもレッテルを貼る要素があるわけです。実際に誰と親しいのかは外からだとよくわからない。
【水彩画】最終的にどの派閥なのだとは言い切れないですし、政治的な力関係が変われば、かつての縁を頼って古なじみとの関係強化といった裏切りもありえるし、よくわからない世界ですよね。
——表に見えない、関係構築や合意作りの関係強化や意思疎通が大事なんですね。
習近平は剛腕の独裁者ではなく「人造皇帝」である
——「習近平が豪腕を発揮し反対勢力を一掃。皇帝のような独裁体制を確立へ」という、ありがちな見立ては間違っていて、「やっぱリーダーは強くないと……みんなの支持で作られた人造皇帝・習近平が爆誕」と理解するべき、ということはわかりました。それでは、その作られた最強リーダーはこの10年でどんな成果を残せたのか、というのが気になります。
拙著『なぜ、習近平は激怒したのか』(祥伝社新書、2015年)で詳述しましたが、胡錦濤政権末期はいわゆるネット世論の突き上げがすさまじく、労働者や農民もネットを利用することで、大々的なデモや集会を展開できるようになりました。こうしたネット世論を鎮圧したというのは成果かもしれません。ただし、今の米中関係の悪化やコロナ禍に対応しきれずの経済減速など、課題もあります。「最強リーダー」を作った甲斐はあったのでしょうか。
【李昊】今の時点で評価することは難しいのですが、中国共産党内部からは「国力を高め、国際社会での存在感を高めた」「新疆ウイグル自治区と香港を安定させた」「経済を発展させた」というあたりはポジティブに評価されているのではないでしょうか。一方でネガティブ要素は今後の経済です。足元はだいぶ怪しくなっていますから。
——新疆、香港は中国外から見るとマイナス要素に思えますが、中国共産党の評価では加点項目なんですね。
【李昊】中国国民や中国共産党の幹部たちがどう考えているのかというのが大事です。彼らの評価もおおむねポジティブなように見えます。海外から見ると、言論の自由が大きく後退したのがマイナスに見えますが、当の中国国民はこの点を問題視している人は多くないように思います。