旧統一教会を信じる母と反対する父との板挟みの人生

筆者との会話の中で、柴田さんは宗教2世として育った苦しい胸の内を明かします。

「教団に批判的な父親と、嘘をついて隠れて教団へ通う母との板挟みのなかで、私は育ちました。子供のころから、ずっと本当のことが誰にも言えない日々を送りました」

難を逃れた形だが、柴田さんは冒頭で述べた、1億円を献金した信者の母親を持つ息子が焼身自殺したことに、自身の体験を重ね合わせます。

多田文明『信じる者は、ダマされる』(清談社)

「私は社会人になり一人暮らしをすることで、教団からの献金の要請からも逃れることができ、完全に離れることができました。しかし、亡くなれた息子さんはずっと家にいることで、教団や信者である母親の影響を受けて、誰にどのように相談すればよいのか、わからなかったのかもしれません。私も、反対される母のことを思うと、父には真実を話せませんでした。息子さんも本当のことを口にできない苦しい葛藤があって悩み続けたのかもしれません。そう思うと、とても心が痛くなります」

親の言いつけに従うような優しい子ほど、相手の気持ちをおもんぱかりすぎて、身動きがとれなくなってしまうのかもしれません。

「母はいまだに実際に教団に献金した総額がどの位になるのか、教えてくれません。というより、過去を見つめたくない思いがあるようです。それを知られると、父に隠れて教会に通っていたことがバレてしまうという、怖い気持ちもあるのでしょうね」

さらに柴田さんは話を続けます。

「もちろん、教団への献金や物品購入したお金はすべて返してほしい思いです。ですが、母親が正直にすべてを話す日まで待ちます」

家族は信者の心が元に戻るまで、慌てずに待つしかありません。それは何年かかるかわかりません。家族は、こうした「待つ」というつらい時間を長く過ごしています。教団によって家庭崩壊しただけでなく、それを修復するまで長い長い時間を過ごす。それは筆舌に尽くしがたい精神的苦痛です。旧統一教会はこうした責任もとるべきです。

柴田さんの母親が完全に教団を離れる日は、すべてを家族に正直に話し、本当に自分の心に折り合いをつけることができたときです。

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