「かかりつけ医」は誰でもいいわけではない

息子の義父が享年79で自宅で亡くなった時は、かかりつけ医に死亡診断をしてもらえなかった。通院先が都内の大型総合病院だったため、主治医は往診ができなかったからだ。同じかかりつけ医でも町医者と総合病院の外来の主治医では、この点の対応が違ってくる。

私が小さい頃お世話になっていた近所の医院は、診察室の奥が自宅の空間になっていたため、お昼が近づくと料理の匂いが待合室まで漂ってきたり、子供たちの声が2階から聞こえてくるなど、いかにも町医者の雰囲気が満ちあふれていた。患者と医師とはご近所仲間だからほとんど顔見知りで、まさに地域医療の拠点になっていたものだ。

都内世田谷区から横浜市へ引っ越しをしてきた時に一番困ったのは、引っ越し前にお世話になっていたような町医者がどこにいるか、わからなかったことだ。もちろんネット検索をすれば、たちどころに近所のクリニック情報はいくらでも出てくる。しかし、今時の開業医は総合病院同様に「呼吸器内科」「消化器外科」「胆管外科」「アレルギー内科」「心療内科」などなど、専門性を売りにしている場合が多い。

待たされたあげくに診察室に入ると、医師は初めての患者の顔をまともに見ないで、机の上のモニター画面に映る数値ばかり眺めている。これでは目の前にいる人間(患者)よりも病状や臓器に関心があるとしか思えない。診察後に言い渡される指示もどこか上から目線で、医師がひとりでほとんどの治療方針を決めてしまう。そんな経験やら見聞が頭をかすめるせいか、専門性を強調したような医院のホームページを閲覧しても、いまひとつお願いする気にならなかった。

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在宅の診取りを扱える病院を探す

母のためにかかりつけ医が必要だと感じたのは、90歳になった母に年齢相応の衰えが見え始めたため、介護サービスを導入することを考え始めた頃だった。同居者の私が、仕事の都合で1年の半分近く家を留守にするので、ひとりで過ごす日数はどうしても増える。今後のことを考えてサービスを受ける準備をするには、どうしてもかかりつけ医の診断と判定が要る。

そこで地域医療を専門とする医院に絞って検索をしたところ、院長がプライマリー・ケアを実践する『実地医家のための会』会員の内科医院が、歩いて10分くらいの場所に見つかった。プライマリー・ケアとは、《簡単に言うと「身近にあって、何でも相談にのってくれる総合的な医療」》(日本プライマリ・ケア連合学会のホームページより)のことで、患者を病人ではなく、ひとりの社会生活を送る人間として心身相互から総合的に診察してくれる医療をさす。

評判を聞いてみると、長い間地域に溶け込んで在宅支援診療に貢献してきた医院であり、往診から在宅の診取りまでをこなしていることがわかった。お年寄りからの信頼が厚いなら間違いはないだろうと思って、お世話になることを決めた。