地域重視のマーケティングに陰り
今のプロ野球のマーケティングは「ローカルでのヘビーユーザー」中心だ。
特にファンクラブ会員を中心とした「年に何回も球場に足を運ぶ」地元のリピーターを顧客にしている。会員のスマホには「あなたが観戦した試合の勝敗は何勝何敗です」「何日の試合にあなたが好きな○○選手が出場します」など、細かな情報が入る。
2019年の2653万人余りのお客はこうしたリピーター戦略によるものであり、実数は900万人程度ではないかといわれている。
これがプロ野球ファンの母数だとすれば、テレビ観戦全盛期の半分以下になる。テレビの視聴率が3%なのも当然だ。
筆者は2021年末に西武とDeNAの営業責任者に取材している。両球団はコロナの期間中に本拠地球場の大改装を竣工させた。どちらの責任者も「新球場が満員のお客で埋まるのをこれまで見たことがなかった。今年はぜひ見たい」と口をそろえた。
しかし定員3万1552人の西武のベルーナドームで、3万人以上入った試合は、まだ一度もない。DeNAの横浜スタジアムの定員は約4000席増えて3万4046人となったが、ほぼ満員の3万2000人を超えたのは6試合だけだ。
もはやプロ野球は全国民共通の娯楽ではない
さらに深刻なことは、今のプロ野球ファンが12球団の本拠地周辺の大都市圏に集中していること。NPBでは地方球場でも公式戦を行っているが、近年、観客動員が激減している。
2010年には地方球場で公式戦を43試合行い71万9733人の観客を集めた。1試合当たり16738人。2万人以上を動員した試合も12試合あった。しかし2022年には22試合28万2787人1試合当たり1万2854人。
2万人以上の試合は皆無。阪神、広島、中日、オリックス、ロッテは地方球場で主催試合をしていない(中日は豊橋での1試合が雨天中止)。
中でも関係者に衝撃を与えたのは、沖縄県那覇市で行われた巨人-DeNA戦が8992人、9260人と2試合とも1万人に届かなかったこと。3万人収容の沖縄セルラースタジアム那覇は巨人の春季キャンプ地でもある。平日とはいえこの数字はショッキングだった。
地方での公式戦は、大相撲の巡業と同様、地方の新聞社や放送局、一般企業などがプロモーターとなって、球団から試合を「買い取る」形が一般的だ。
NPB球団にして見れば利益が確保できるから「手堅いビジネス」だったのだが、観客が入らないため赤字になることが多くなって、プロモーターの成り手がなくなっているのだ。
昭和の昔、プロ野球の二軍は、地方球場を巡業して1万人以上の観客を集め収益を上げていたが、それもはるかな昔話になった。
プロ野球は「ナショナル・パスタイム(国民的娯楽)」といわれたが、いつの間にか12球団本拠地だけの「ローカルパスタイム」になりつつあるのだ。