声出し応援ができないことだけが理由なのか

これは「まだコロナ禍からの回復途上だから」で片付けていいのだろうか。

ある球団の営業担当は「応援できないのが痛い。声を出すのもジェット風船もダメだから、それが目的だったファンが来ない。叩いて音を出すグッズなども売っているが反応は鈍い」と語った。

そういう部分もあるだろう。しかし、筆者は長い目でみれば、この落ち込みがプロ野球人気の再度の低迷につながる恐れもあると見ている。

テレビにとって最重要コンテンツだった巨人戦

筆者が子供のころ、夜7時ともなればNHK、民放のどこかの局で「プロ野球中継」をやっていた。ほとんどが巨人戦だった。父親はビールの栓を抜いてどっかとテレビの前に座り、子供も隣に座る。昭和の一般的な家庭で見られた光景だ。

ビールと野球のテレビ中継
写真=iStock.com/show999
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巨人戦の視聴率は1960年代から80年代まで20%をキープしていた。常に安定して数字がとれたからテレビ局は巨額の放映権料を球団に支払った。

巨人戦があるセ・リーグ球団は放映権料だけで採算がとれていた。対照的に1970年の観客動員はセが654万人パは304万人、合わせても1000万人に届かない。当時のプロ野球ファンは「テレビで見る」のが基本的な観戦スタイルだった。

21世紀に入って巨人戦の視聴率が目に見えて下がり始め2001年には15.1%となる。2004年に日本テレビは全試合の地上波全国ネットを停止、2006年には10%を割り込み、2022年には3%台となっている。

視聴率1%が何人に相当するのかには議論があるが、20%以上の高視聴率を誇っている時代には一晩で2000万~3000万人が視聴していたと考えられる。しかし現在は300万人程度まで落ち込んでいる。BS、CSでの放送はあるにしても、テレビ局にとって重要なコンテンツではなくなっている。

テレビ→球場で野球を見る時代に

それに代わって2004年の「球界再編」を契機として、NPB球団は新たなマーケティング戦略を展開し始めた。

福岡を本拠とするソフトバンクが野球場を「野球を熱心に見るお客だけでなく、グルメを楽しみたい人、騒ぎたい人、遊びたい子供」などが半日楽しく過ごすことができる施設=ボールパークにするという考え方を打ちだした。

派手な応援スタイル、さまざまなアトラクション、球場グルメ、多彩なグッズなどで魅力を高め、多くのお客を集めるようになった。宮城県を本拠とした新球団楽天、北海道に移転した日本ハムなども地元のファンを掘り起こした。パ球団から始まったこの流れは、セにも波及した。

2005年にはセの観客動員は1167万人、パは825万人、計1992万人だったが、2019年にはセ1487万人、パ1167万人、計2653万人と33%も増加した。

特にパ・リーグは41%増。テレビの視聴者数が激減しても、実動員がそれを大きく上回った。プロ野球は新たなビジネスモデルを確立したのだ。

これによってプロ野球人気は息を吹き返したのだが、そろそろこのビジネスモデルが曲がり角に差し掛かったタイミングでコロナ禍に見舞われたのではないか。