日本の購買力の水準は1972年と同程度にまで落ちている
企業の時価総額世界ランキングでも、日本のトップであるトヨタ自動車(第41位、2286億ドル)より、台湾の半導体製造会社TSMC(第10位、5053億ドル)や、韓国のサムスン(第18位、3706億ドル)が、いまや上位にある(2022年4月13日現在)。日本の凋落ぶりは明白だ。
円の実質実効レートは固定為替レート時代に逆戻り国際比較をする場合、異なる通貨表示のデータをどのように換算するかが重要な問題になる。最も分かりやすいのは、その時点の市場為替レートで換算することだ。ただし、これでは、各国での物価上昇率の違いによって生じる購買力の変化を見ることができない。そこで、購買力の変化を見るために、「実質実効為替レート」という指標が用いられる。
BIS(国際決済銀行)が2022年2月に発表した22年1月時点の円の実質実効為替レート(2010年=100)は、67.37となり、1972年6月(67.49)以来の円安水準となった。2022年1月の市場レートは、1ドル=115円程度であった。ところが、その後、さらに円安が進んだ。そして3月には65.26となった。これは、1972年1月の65.03と同程度の水準だ。
この頃、私はアメリカに留学していた。日本での給与が月2万3000円だったのに対して、大学の周辺にあるアパートは、最も安いところで賃料が月100ドル、つまり3万6000円だった。日本円の購買力が低いと、いかに惨めな生活を余儀なくされるか。それを身をもって体験させられた。いまの日本円の購買力が、そのときと同じ水準まで下がってしまったのだということに、改めて驚かざるを得ない。
「ビッグマック指数」では中国やポーランドに抜かれている
OECDの賃金統計では、国ごとに、つぎの3種類の指標が示されている。第1は、自国通貨建ての名目値。第2は、自国通貨建ての実質値(2020年基準)。第3は、2020年を基準とする実質値を、2020年を基準とする購買力平価で評価した値。
本章の1節で紹介した各国の値は、第3の指標のものだ。ここでは、為替レート変動の直接的な影響は取り除かれている。したがって、本章の最初で見た日本の相対的地位の低下は、為替レートが円安になったことの直接的な結果ではない。
英誌『エコノミスト』が「ビッグマック指数」を発表している。これは、前々項で見た実質実効為替レートと同じようなもので、各国通貨の購買力を表している(数字が低いほど、購買力が低い)。2022年2月に『エコノミスト』誌から発表された数字では、日本は中国に抜かれてしまった。ポーランドにも抜かれた。いまや日本より下位にあるのは、ペルー、パキスタン、レバノン、ベトナムなどといった国だ。
「ビッグマック指数」とは、正確にいうと、「『ビッグマック価格がアメリカと等しくなる為替レート』に比べて、現実の為替レートがどれだけ安くなっているか?」を示すものだ。しかし、これは、分かりにくい概念だ。この指数よりも、「ある国のビッグマックが自国通貨建てではいくらか」を見るほうが、直感的に分かりやすい。