8割の社員が早期退職を希望したが…

だが、地元企業との「共創」が生まれようとするかたわらで、百貨店としては重大な「人」の課題を抱えている。2020年7月の再生計画の正式決定とほぼ同時期に、松山三越は早期退職の募集に踏み切った。250人ほどいた社員のうち想定を上回る約8割の社員が退職を希望し、残る“獅子”は47人。

正面玄関前に設置された「ミチナカピアノ」を楽しむ人々。改装前にあった三越の紫紺の暖簾は外され、商店街に一体感が生まれた=1月2日、松山三越前(写真提供=関係者)

百貨店の売り場が2~4階に集約されて縮小したとはいえ、松山三越の社員には別の重要な仕事が生まれている。ここで起こる変革の“機運”と“障壁”の両方を肌で感じながら、百貨店が再び地域の核となる「城」を興し城下町をつくれるか、一つのあり方を見いだす役割だ。

大手百貨店が不採算店として閉店を決めた周辺市街地では、衰退が加速した地域も少なくない。閉店に歯止めをかけるのと同時に、持続可能な社会をつくることはきれいごとではなく、今後の百貨店にとって新たな「成長戦略」になりうる重要なテーマだ。

それは、人々の出会いや対話を生みだすコミュニティーという新たな「公共」を育むリアルの復活であり、自然を守りながら衣食住の素材を届ける一次生産者に光を当てることでもある。

三越伊勢丹本体が、グループのネットワークに乗せて「松山三越モデル」の浸透に動いた時、百貨店はようやく、「小売の王様」に返り咲く道が開けるのかもしれない。

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