地域のランドマークを復活させたい

時代の先駆者としての地位は崩れ、いつしか百貨店はどの施設がより手軽でより便利か、“大衆消費”の土俵で比べられ、選ばれなくなってしまったのではないか。他の小売業と横並びで消費者の嗜好の変化とビジネスの効率性を追いかけることに必死になり、百貨店が元々鍛え上げてきた「目利き」によって、“まだ見ぬ価値”を掘り起こし、演出することを自ら投げ捨ててきたようにも映る。

地方であるほど、その価値に引き寄せられる人々によって百貨店そのものが地域のランドマークをなし、独自の風土を育むコミュニティーとしての役割を果たしてきた側面は大きい。衰退を放置すれば、地域全体の体力を奪われる起点になりかねない。

芽生えた問題意識から二宮氏らが構想したのが、「つながる・伝える・学び合う」をコンセプトにした、デパ地下に切り込む食の拠点づくりだった。

「これまでの延長線上ではうまくいかない」

TCMでは、国産原料、化学調味料無添加の商品を中心に、生産者と直接交渉して仕入れた全国各地の選りすぐりの食材や、つくり手のこだわりが伝わる質の高い商品を揃える。併設するキッチンスペースで旬の食材を使った期間限定のレストランや、料理教室などを定期的に開催。生産者と利用者の接点を増やしながら、商品化に至るプロセスや素材の生かし方を学び合い、「食」を支える一次産業のあり方を人々に問いかけるようなコミュニティーをつくろうとしている。

食品売り場内の料理教室の様子。住宅設備をオンライン販売するサンワカンパニーがショールームとして場所を提供している
写真提供=TCM
食品売り場内の料理教室の様子。住宅設備をオンライン販売するサンワカンパニーがショールームとして場所を提供している

原型は、都内を中心に展開する創業42年のスーパーマーケット「福島屋」にある。「食べて美味しく体に優しい」独自の商品セレクトと経営スタイルが注目され、顧客もメディア取材も絶えない、話題の人気スーパーだ。その創業者の福島氏がなぜ、松山三越の再生プロジェクトに関わる決断をしたのか。

福島氏は言う。

「コロナもあり、いよいよ予測不可能な状況で、商売もこれまでの延長線上ではうまくいかないことがはっきりしてきました。中でも一次産業を後ろに控える(食関連の)事業は最も手がつけられていない。この危機的な状況で意識を変えることと、あるべきビジョンをどうやって掛け合わせていくか。失敗して恥ずかしい思いもするし、冷や汗はかく。それでも、やる価値はあると思ったんです」