百貨店らしさを減らし、地域に求められる場へ
四国最大の人口規模を誇る松山市は、市街地から車で20分ほどのところに日本三大古湯・道後温泉があり、夏目漱石の『坊ちゃん』、司馬遼太郎の『坂の上の雲』ゆかりの地としても知られる有数の観光地だ。
さらに、創業75年の松山三越は商店街の北側に立地し、土地、建物とも自社所有の物件。外壁や正面玄関の巨大なアトリウムにはイタリアから取り寄せたという大理石が使われ、現代の建築デザインではみられないような空間が広がっている。
「閉店する政策はやればできます。でもそれをずっとやり続けたところで、それ以上の成長戦略はありません。わたしが本社に伝えたのは、何億円かかけただけのリモデルでは(再生は)難しい。中途半端にやるなら閉店したほうがいい。でも、やるなら本気でやっていく、ということでした」
「百貨店」としての売り場を減らしてでも、地域に求められる場をゼロから興して存続させる。自社だけで組み立てるのではなく、地元企業に参画してもらう「地域協業」の提案が支持され、再生プロジェクトにゴーサインが下された。
デパ地下には丸ごと冷凍された魚がずらり
「もしかしたら、これは大化けするかもしれませんね」
地下1階に昨年10月先行開業した食品売り場「THE CENTRAL MARKET」(以下TCM)に、都内から視察に訪れていた大手電鉄系スーパーの幹部がこう呟いた。
同店の鮮魚コーナー「SEA to TABLE」には、普通のスーパーで売られているパックの切り身はほとんど見当たらない。代わりにあるのは、丸ごと1匹ずつ真空パックされた冷凍状態のさまざまな種類の魚介類だ。
市場や漁港から届けられた魚介類は、売り場併設の厨房で内臓やうろこなどを処理した後、専用の特殊な機械でマイナス30度に瞬間冷凍して販売される。賞味期限は6カ月程度。地元、瀬戸内の近海でとれた鮮魚が中心で、普段は鮮度勝負であまり市場には出回らないという希少な魚にも出会える。食べる時は、流水解凍すれば、新鮮な生の魚として刺身にしたり、そのまま調理したりできる。
「品切れを極端に嫌う」百貨店の悪習を変えた
一般的に品揃えの豊富さが売りの百貨店では、“品切れ状態”を極端に嫌う傾向がある。その課題の深刻さを目の当たりにしていたからこそ、浅田社長は「これはいける」、そう直感したという。
「夕方5時ごろになって鮮魚売り場が品薄になってくると、売るものがないぞと叱られる。でも、閉店間際になっても商品が残っていたら、それはそのまま廃棄処分になってしまいます。百貨店はこのようなことを何十年も続けてきました。この技術を知った時に、食品ロスという最大の課題に、この売り場から一つのムーブメントが起こせると思いました」