売らないのは法律違反…回線契約も獲得できず、安売りする羽目に
言うまでもなく、このセールを打つ目的は安売りの端末を引き換えに自社回線を契約してもらうことだ。契約数が伸びなければキャリアから分配される報奨金は減っていき、最終的には閉店の憂き目に遭う。そのため、端末単体で購入されると端末を安く持っていかれてしまうだけでなく、回線契約を獲得するための武器を失うことになり、二重で痛手となる。ショップにとって単体購入を行う客は「招かれざる客」だ。
実際、単体購入を申し出る客に対し、「在庫がないのでお売りできない」と虚偽の申告を行う販売店は多く存在する。今年3月14日に総務省の「競争ルールの検証に関するWG(ワーキンググループ)」が発表した報告書によれば、情報提供窓口に寄せられた701件の通報の中で、394件が「端末単体販売拒否」「利益提供の超過疑義」に関するものだったという。
転売目的の「転売ヤー」からすれば1台買うだけで十分な利益が得られるのだから、ある程度のもめ事を承知で単体購入を強行する気持ちは理解できる。そのうえ、「売らないのは法律違反」なのだから、ある程度強気に出ることもできるし、録音を回して虚偽の証拠をつかめば、恫喝に近い立ち回りも可能だろう。
転売ヤーの独り勝ち状態
誤解のないように書いておくと、この改正電気通信事業法の施行前から、携帯電話の転売を目的とした契約は存在した。しかし、これはショップと転売ヤーの「共犯関係」であり、今回のように店側だけが一方的に損をするようなものではなかった。
たとえば月末が近くなり、契約数がノルマにどうしても足りない場合。ショップはのりかえ契約時に特価で機種を提供すると、目ざとい転売ヤーが来てのりかえ契約をしてくれる。転売ヤーは契約ルールや手続きを熟知しているから、店頭でモタつくこともない。イチかバチかで店頭に来た“素人”に営業をかけるよりも安全かつ迅速に契約を得て、ノルマ未達のピンチを回避することができるわけだ。
また、携帯電話には「各キャリア1名義あたり5回線まで」という保持の上限がある。これによって、1人が利益を乱獲する状態はある程度抑止されていた。
しかし今回の移動機販売による転売ヤーの跋扈は話が別だ。移動機販売は回線契約を伴わない販売方法のため、1人で何度でも端末を買うことができてしまう。転売ヤーにとってはやりやすいことこの上ない状況だといえるだろう。