事例2 一人ひとりの士気が低い開発チーム

ある自動車の周辺機器メーカーB社の開発チームの事例をご紹介します。

B社は「カーナビ(カーナビゲーション)」を主力製品として市場にポジションを確立していましたが、昨今に人工知能(AI)技術の発展と普及の影響について、不安を感じていました。

これまではファクトリー型で技術開発を繰り返していれば、競合他社に負けない製品を打ち出すことができていました。しかし、AIによって「自動運転社会」が到来すれば、ドライバーにとっては運転機会そのものが減っていくことが予想されます。もしかすると、「カーナビ」の市場そのものが消滅してしまうかもしれません。

これに対してトップから「人工知能(AI)を活用した未来のカーナビ」を考えよと指令が下され、アイデアを考える企画ミーティングを繰り返していました。けれども、なかなかピンとくるアイデアが生まれず、私のもとへと相談があったのです。

相談に訪れたクライアントチームの皆さんは、私の目から見て、完全に「衝動の枯渇」に陥っていました。誰もが、「人工知能(AI)を活用した未来のカーナビ」を作ることに、モチベーションを感じていないように見えたのです。一人ひとりの衝動が失われたままでは、ワークショップ型に切り替えられず、現場主導のイノベーションにはつながりません。結果として、トップの命令に従って「カーナビを存命させる」という手段が「とらわれ」となっており、「認識の固定化」と「目的の形骸化」が併発しているようでした。

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モチベーションをなくしたチームにかけた問いかけ

そこで私は、「みなさんは、なぜカーナビを作るのですか?」「これまで、何を動機に開発してきたのですか?」と、一人ひとりの衝動と、チームのこれまでのルーツや、大切にしている「こだわり」を確認するための問いかけを、投げかけてみたのです。仕事の意義そのものを否定しているようにも捉えられかねない問いかけですから、この問いを投げかけることは、勇気が要りました。

安斎勇樹『問いかけの作法 チームの魅力と才能を引き出す技術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

案の定、クライアントの担当者は、少しムッとした表情を見せ、「いやね、安斎さん。私たちもカーナビを作りたいから作っているわけではありませんよ」と、抗弁を始めました。

「仮に自動運転社会が来ても、自動車で『移動する時間』そのものはなくなりません。私たちは、カーナビが作りたいわけじゃない。生活者に『快適な移動の時間』を提供したいんです!」

その言葉はこれまでの言葉よりも力強く、これまで築きあげてきた「誇り」のようなものを感じました。内に眠っていた「衝動」と、自分たちが熱量を感じている「本当の目的」が、チームにとっての真の「こだわり」として、言葉になった瞬間です。言葉を発した担当者自身、そして同席していたチームメンバー一人ひとりの表情が、ガラリと変わるのを感じました。全員が気づいたのでしょう。「私たちが考えたかったのは、『AIを活用したカーナビ』ではなく、『未来の移動の時間』だったのだ!」と。