コロナ禍では反ワクチンで再注目
2017年、近藤医師は『ワクチン副作用の恐怖』(文藝春秋)という反ワクチン本を出版した。医療関係者から「がん放置療法の次は反ワクチンか」と猛バッシングを受けたが、医療に詳しくない患者向けにわかりやすい文章で構成したこの著作はヒット作となった。
そしてコロナ禍においてワクチンが実用化された2021年には、『こわいほどよくわかる 新型コロナとワクチンのひみつ』(ビジネス社)を出版し、長引くコロナ禍による社会不安を背景にヒットし、その後も反コロナワクチン本を出版している。
最後の著作の宣伝文句「わが家で安らかに逝ける」
一連の近藤本の特徴は、医学的な正誤を突き詰めずに、物事を単純化し、因果関係や善悪を近藤視点で断定することによって、読者にある種のストーリーを提供することにあった、と筆者は感じている。
一方で、標準的治療を提供する専門医の反論は、医学的な正確さを重視するので「Aの症状ならBやCが考えられるが、Dの可能性もあり、治療薬はFが効く可能性がある」といった回りくどい表現になってしまい読者(特に高齢者)の心情には刺さりにくい。
ゆえに「ワクチンは危険だが、製薬会社と厚労省の陰謀で隠蔽されており、医師会幹部は打っていない」のような(事実でなくても)単純明快で陰謀論的な内容のほうが売れるという傾向もあり、近藤医師の死後も、同様の非標準的治療を推奨する本は出版され続けると思われる。
これは近藤医師とは関係ないが、筆者としては「イベルメクチンを飲めばコロナは治る」「5類に落とせばコロナ病床は確保できる」のような治療法・解決法を単純明快に断言する著者は基本的には信じるべきではないとお伝えしたい。
社会不安が強いほど断定的な強い口調に惹かれがちだが、世界はそれほど単純ではないことを自覚することが、患者側にも求められている。
折しも、近藤医師は2022年8月2日に新刊『どうせ死ぬなら自宅がいい』(エクスナレッジ)が出したばかりだった。同13日の出勤途中に突然体調を崩し、搬送された都内の病院で亡くなったと報道されている。
「これさえ守ればわが家やホームで安らかに逝ける」と帯の宣伝文句にはあったものの、残念ながらかなわなかったようである。