東芝の執行役員の報酬が前年比2倍超になった理由

なぜそうなるのか。執行役の報酬は基本報酬(固定)+株式報酬+業績連動報酬で構成される。基本報酬は役職別の固定給であるが、業績連動報酬は「短期インセンティブ報酬」と「中長期インセンティブ報酬」の2つで構成される。そして短期インセンティブは、事業年度の営業利益と営業キャッシュフローが反映される。中長期インセンティブは「3年間相対TSR(株主総利回り)」が反映される仕組みとなっている。

株主総利回り(TSR)とは、株式投資によって得られた収益(配当とキャピタルゲイン)を投資額(株価)で割った比率。つまり株主がとどれだけ儲けたかを示す指標であり、それが役員の報酬額を決める基準になっている。

株主価値向上の目的で欧米企業が導入し、日本でも取り入れている企業は多い。東芝の株は投資ファンドが買い取ってくれるとの思惑もあって、株価は最近値上がり傾向にあるが、まさに株主が儲かれば役員も儲かるというウィンウィンの指標だ。

もちろん会社の業績や株価が向上することは結構なことであるが、問題は役員と同様に社員にも還元されているのかという点だ。

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ところが、今年の春闘の東芝のベースアップは3000円。役員の平均報酬額の2倍超アップに比べてはるかに見劣りする。さらに役員と社員の給与格差も拡大した。社員の平均年収は約892万円。経営トップの報酬と社員の報酬の倍率は、2021年の前CEOとの格差は16倍だったが、今年3月に退任した綱川社長との格差は59倍に拡大した。

それでも欧米企業に比べると倍率は小さいとの声もあるが、一般的に内部昇進で社長になるケースが多い日本企業ではトップとの格差が20倍を超えると、社員の不満が生じると言われる。東芝の社員がこの格差をどう見ているのか気になるところだ。

この格差は東芝だけの問題ではない。

役員報酬の総額は前年比32.9%増になったと述べたが、経団連が集計した今年の春闘の大企業の社員の賃上げ率は2.27%だった。製造業の平均でも2.28%にすぎない。夏のボーナスも8.77%アップにとどまる。全体の賃上げ率も労働組合の中央組織の連合の最終集計結果によると2.07%(6004円)だった。3年ぶりに2%台になったものの、円安による輸入価格の高騰やエネルギー価格上昇により、物価が上がり続けている。

6月の消費者物価指数が前年同月比2.2%上昇し、10カ月連続の上昇となり、賃上げ率を上回る(総務省)。物価等を加味した5月の所定内給与の実質賃金は前年同期比マイナス1.5%、6月もマイナス1.0%に落ち込み、今年の2月以降マイナスが続いており、上がる気配がない。