「殴る」快感を覚えてしまった

ボクシングの試合は1R(ラウンド)3分なので、ここでは、全てが3分×3(子供は2分)で回っている。カラダに3分という時間を覚えさせていくのだろう。3分ごとに、タイマーのブザーが鳴り響き、1分休んでまた3分と、自分との戦いが始まる。

この動と静の繰り返し。縄跳び、サンドバッグ、パンチングボール、シャドー……さまざまな音が、汗とうめきに似た声に混ざり飛び交っている。

写真提供=筆者
会長を相手にミット打ち

求められるのは、持久力と瞬発力。女性部員は少ないけれど、子供から、若者、そしておじさんまで、息を切らし真剣にサンドバッグに向かう。エアコンは一応動いているが、みな汗だく。息子が入会し、後から父親がハマるパターンも多いようだ。

通い初めの頃はヤバかった縄跳びだったが、こんな私でも半年もたてば、1000回跳べるように。最近入ったおじさんは、ゼイゼイ息を切らして倒れそうではないか。

しかし、シャドーの練習に移動すれば、そんなドヤ顔もできない。鏡に映る自分はとても見られたものではない。それでも、わが身を見て、シャドーを繰り返さねばならない。残念な自分と向き合うのは拷問だ。逃げ出したくなる。その衝動を抑えてくれるのは、「カッコよくなりたい」という欲望だ。

パンチングボール(写真提供=筆者)

マスクをしているから、口元は隠せるが、カラダのラインは丸見えになる。脚をスポーツタイツのCW-X1枚で勝負している女子もいるれけど、私は無理だ。お尻を隠すべくその上からトランクス型をもう1枚身にまとう。アイメークは、汗で崩れるのを計算に入れてしっかりめ。隣に立つ若者の機敏な動き、若い女性のスタイルには完敗だけど、そもそも勝負しようと思ってはいけない。

パンチングボールは、くるくると空回りすることしばしが。でも、毎日触っていたら、段々リズミカルになってきた。意識を全集中するとうまく叩ける。そんなときは自分の音に少し陶酔。なかなか奥深いものがある。

サンドバッグは難しいけれど、にっくき相手だと思って立ち向かう。無心で叩いていると、汗は吹き出し、息は切れるが、体の奥底から沸きあがってくるものがある。最近フックがうまくなってきた。サンドバッグだけど「殴る」快感を覚えてしまった。