ミットにパンチ。私の中の獰猛な何かが覚醒した

練習のローテーションの最後は、床に汗と涙と血がしみ込んだリングに上がってのミット打ちだ。相手は元世界チャンプの会長。これまで人を殴ったことはないけれど、会長が手にするミットに向かいパンチがバシッと音を立てて決まったとき、私の中に眠っていた獰猛な何かが覚醒する。目には見えないが、確実に脳内で何かがドバッと出て、細胞の1個1個が生まれ変わるのがわかる。「ああ、私はもっともっとうまくなりたい」。

ミット打ちをする山本氏
写真提供=筆者
ミット打ちで力を振り絞る

汗だくになる流行りのスポーツは、いろいろあるけれど、ボクシングは自分との闘いだ。

かつて通ったことがある、みんなで音楽に合わせノリノリにこぐ暗闇バイク(フィールサイクル)や、やったことないけれど時間ごとに移動していくおばさんに人気のカーブスとは真逆だ。ボクシングは神の領域に感じる。

そしてボクシングは、孤独だ。みんなで同じ動作をしているようで、最初から最後まで向き合うのはたった自分ひとりきりなのだ。

ダイエットといえば、始めて3カ月で体重は3kg落ち、ボディーは締まってきた。筋肉もついてきて、気が付けば、プロテイン片手に、自宅キッチンで力こぶをつくってポーズする自分がいる。

バンテージを巻く山本氏
バンテージを巻くのもお手のもの(写真提供=筆者)

家族の反応もずいぶん違う。夫や息子によれば、「後ろ姿が変わった」らしい。ジムでたまにしか会わないマダムは会うたびに褒めてくれる。「すごく痩せたわね」「足の筋肉が引き締まってかっこいいわ」と。半年たった今は、筋肉がついた分、体重は戻ったけれど、去年まできつかったスカートやパンツがするすると入るようになった。体幹が整ったのか、スコアはさておき、ゴルフも飛ぶようになった。

別世界だと思っていたボクシング。ルールも選手も知らないし、テレビのボクシング中継は怖くて目をそらすほどだった。そもそも殴り合うスポーツなんて、野蛮な人がやることだ。そんな私が週4~5回、部活のように通っている。楽しくて仕方がない。

何がそんなに私の心を掴んだのだろうか。試合に出るわけでもないのに、なぜこんなにハマるのか。この快感はなんだろうか。

通いながらずっと考えていた。ひとつは、仲間から活気とエネルギーをもらえることだ。それだけで若返る自分がいる。音と手応えとで、日常では味わえない刺激がジムには溢れている。その日の仕事などのストレスはたちまち発散される。