また、ロシアのプーチン大統領と27回も首脳会談を重ねたことはよく語られる。しかし実態は、安倍氏は首相当時に「北方四島」を返してもらおうとしていたが、プーチン大統領とは会うたびに距離が開いていった。

ロシアからすれば、北方四島は第2次世界大戦の戦利品として、戦勝国が集まったカイロ会談、ヤルタ会談を経てもらったものだ。「この四島をください、と言われたら考えてもいいが、返せとは心外だ。北方“領土”という言葉はおかしい」というのが安倍政権のときに固まったロシアの主張だ。

だから、会談を重ねるうちに「北方領土返還」から「北方四島を一緒に開発しましょう」になり、やがて「日ロ平和条約を結んで実績が出てから話そう」と弱気になっていった。安倍氏が重用した外交官・谷内やち正太郎氏がラブロフ外相に「(返還されたら)日米安保の対象になりうる」と失言したことも相まって、会えば会うほど北方四島の返還は後退していったのだ。

日本の外交にプラスになった成果はない

現在のウクライナ情勢でも、「(プーチンと親しいんだから)出番だよ!」と外野に呼びかけられても、これまでのプーチン氏との関係を役に立てようと動くことはなかった。

前述の中曽根氏でいえば、90年の湾岸危機のとき、外国人を人質に「人間の盾」を築いたイラクのフセイン大統領(当時)に対して、自らイラクを訪問して直談判し、日本人の人質74人の解放を実現させている。

安倍氏は、隣国である中国、韓国、北朝鮮との近隣関係でもまったく成果はなかった。就任時に「優先順位が高い」と自ら宣言した北朝鮮による拉致被害者の返還問題も、成果は何もなかった。金正恩総書記に会うトランプ大統領に依頼したことはあっても、自ら動くことはなかった。

以上、冷静に振り返れば、日本の外交にプラスになった成果など私は1つも思い出すことができない。

冒頭の国葬の話に戻るが、そもそも私は、首相経験者は一律で「国民葬」にしたらいいと思っている。また、国費を使うのではなく、今ならクラウドファンディングで国民から寄付を募ればいい。葬儀の規模は亡くなった人次第だ。

寂しい葬儀もあるだろうが、裏返せば、与党は国のために成果を残せる政治家を首相に選ぶ責任があるのだ。そのことを再確認してほしい。

(構成=伊田欣司)
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