それは、若者たちと一緒に同じ生活をしてみるとわかります。
若者たちは、広告にしても商品にしても、「まがいもの」に取り囲まれています。広告といえば、かつてはテレビ広告が中心。何千万円という予算が投じられた、質の高いものばかりでした。ところがテレビ離れが進み、若者たちが目にするのはネット広告ばかりに。
もちろん、ネット広告にも質の高いものはたくさんあります。しかしネット広告は「素人でも作成できる」のが売りでもあり、予算はなく、平均的な質の低さは否めません。商品も同じです。かつて新商品といえば、大企業が出すものであり、「いいもの」であることが約束されていました。ところが今は、新商品といっても大企業が出すものとは限りません。「初めて名前を聞いた海外メーカーから商品を取り寄せてみたら、すぐに壊れた」といった、残念な体験をすることも少なくないのです。
こうなると若者たちは、新しいもの=いいものだとは、思えなくなります。
社会の潮流とは逆をいく“非効率な姿”がバズっている
必然的に、企業に求められる広告戦略もかわってきます。私をふくめ、高度成長期やバブル期を知っている「おじさん」世代は、広告でも製品でも「若者が好みそうな新しい価値を提示しよう」と躍起になっていました。しかし今若者たちが牽かれるのは、むしろ歴史があるもの、いつの時代も変わらない普遍的な価値なのです。
たとえばTikTok上では、菓子職人や時計職人などが、昔ながらの仕事の裏側や作業風景を短尺の動画で紹介した映像がバズっています。
このように、長年不変なものこそがクールと感じるのが、現代の若者たちなのです
「無駄の価値」を訴える広告もバズっています。動画配信サービスのU-NEXTはこんなYouTube動画を打ちました。中年の主人公が、10代の頃に集めていた映画のビデオテープを母親に捨てられそうになったことをきっかけに、映画に熱中していた時間の価値を再確認する――。社会の潮流とは逆をいく「非効率な姿」をポジティブに描いた広告です。
デジタル化・効率化が叫ばれる社会に生まれたZ世代はとかく「無駄を省いて行動する」ことを強いられてきました。おそらくその反動なのでしょう。「一見無駄に見える行動や時間のなかに価値がある」というアプローチの広告が、Z世代には刺さるのです。