いじめから自分を守る法律を知る子どもはわずか8.9%
いじめ防止対策推進法が設立して9年が経ちますが「知っている」と答えたのは、全体でわずか8.9%に過ぎませんでした。小学生にいたっては8.4%という低率です。子どもたちの命や尊厳を守るために作られたはずの法律が、当の子どもたちにほとんど認知されていないという事態が明らかになりました。
高校生の自由記述の中には「このアンケートで(法律の存在を初めて)知った」というものもありました。
これはいじめ問題に取り組む者として、とても残念な結果です。なぜなら、いじめ防止対策推進法は、「いじめとは何か」を明確に定義しており、その定義を知るだけでもいじめの抑止効果が期待できるからです。また、いじめ事案が発生したときに、親、学校、教育委員会は「こういう対策を取る」ということも条文に明記されていますから、多くの子どもたちが抱えている「いじめられたらどうなってしまうんだろう」という不安も軽減できるでしょう。
いじめ防止対策推進法は子どもにとって「お守り」のような存在で、知ることで自分の身を守ることができるようになります。しかし、こうしたアンケート結果が出てしまうのは、法律ができただけで大人たちが満足してしまっているからだと思うのです。
9割以上の子どもたちがいじめ防止対策推進法の内容を知らないという結果を見るにつけ、教育行政の最重要課題のひとつとして位置づけられているいじめ問題が、実は軽んじられているのではないかと感じてしまうのは、私だけでしょうか。
スマホのフィルタリング機能が相談窓口をブロック
これは、いじめ問題に長く関わってきた私にとってもまったくの盲点でしたが、スマートフォンやタブレットに設定できるフィルター機能が、いじめ相談窓口へのアクセスを阻害しているという事実が浮かび上がってきました。
フィルター機能とは、ご存じの通り、子どもたちがSNSを通じて事件に巻き込まれることや、有害サイトにアクセスするのを防ぐための機能ですが、この機能をオンにすると、いじめ相談窓口へのアクセスもできなくなってしまうケースが多いというのです。特に小学生の場合は通話にも制限をかけられている場合が多いので、「電話相談」をしたくてもできないケースがあるというわけです。
親や先生は、「家庭には親がいて学校には先生がいるのだから、いじめられたらいつでも相談してくればいい」と考えがちですが、私の経験では、いじめによって心に深い傷を負っている子ほど「いじめられていることを親や先生に知られたくない」傾向が強い。
だったら、公衆電話を使えばいいと思われるかもしれませんが、公衆電話はすでにごく限られた場所にしか設置されていません。となると、残るはスマホやタブレットということになりますが、これがフィルター機能で使えないとなると、いくら相談窓口が開設されていてもアクセスのしようがないのです。
つまり、行政や学校は単に相談窓口を増やすだけでなく、アクセスの方法まで考えて窓口を設置しなければ意味がないのであり、それには、通信会社やプロバイダーを巻き込んで対策を講じる必要があるということです。プロテクトチルドレンでは通信会社に対策を申し入れています。
大阪府寝屋川市のように、いじめに関する情報提供をあえてはがきで募っている自治体もあります。専用はがきにいじめに関する情報を記入して投函すると、いじめ問題を担当している市役所の監察課に直接届くという仕組みです。
こうしたアナログな方法の方が、かえって子どもの命を救うことにつながる場合もあるのかもしれません。いずにせよ、法律同様、いじめの相談窓口も「作って終わり」では意味がないということです。