「風流系」はゆるみがちな心に喝を入れてくれる
冒頭でご紹介した狂歌に代表されるのが「風流系」の警告。類似バージョンや「松茸の露」以外のバージョンも多数あります。
〈急ぐとも外に漏らすな玉の露吉野の花も散らば見苦し〉
〈急ぐとも西や東に垂れかけなみな見(南)る人が汚(北)なかりける〉
〈朝顔の花に絶やすな竿の露〉
いずれの狂歌や川柳も、ゆるみがちな心に喝を入れてくれます。どれも、だれがいつ詠んだのかは不明。今後の調査や研究が待たれるところです。
こうした「風流系」がよく目撃されるのは、個人経営の居酒屋やスナック。貼る側としては、適度なしゃれっ気で店や店主の個性を表現した気になることができるし、酔っ払いオヤジも「風流な警告文の意味を理解してこぼさないように気をつける粋なオレ」に満足感を覚えることができます。
すぐに意味がわかりづらいのが難ですが、押しつけがましさを感じさせることはありません。日本語の特徴である「婉曲表現」の成せる業です。しかも「そうか、松茸の露か」と呟きながら用を足せば、出てくる場所や出てくる液体に特別な価値があるように錯覚できるでしょう。日本で古来はぐくまれてきた「見立ての文化」のおかげです。
やはりお酒の店に多いイメージがあるのが〈もう一歩前へ 君のはそんなに長くない〉と身もふたもない指摘で、ニヤリとさせて注意を促すパターン。実際に誰かが見ているわけではないので、もし図星だったとしても怒る人はいません。