ところで、日本のメーカーなら、「増産」といえばコピペのように同じ設備を単純に増やす場合がほとんどだ。急劇な需要に対応する際に、生産性を上げようと設備を設計変更して生じるリスクを背負うよりは、安全、着実に生産数量を確保したいという思考が優先するからだ。

しかし、イーロンの思考は違っていた。数量を増やしながら製造ラインも進化させてしまう。つまり、“二兎を追う“やり方だ。そのために上述したように、新しいEVを立ち上げる時は必ずトラブってきた。

なんども試練を乗り越えてきたが、不安材料もある

現在、独ベルリンと米オースティンの新工場の稼働は徐々に生産計画に近づいているようだ。新型コロナによる中国の都市ロックダウンの影響を受けテスラの上海工場も大幅に生産台数を落としたが、それでもテスラの2022年の第2四半期(4月~6月)の生産台数は前年同期比で約25%増の25万8580台で、同年上期合計でみると前年同期比約46%増の約56万台となった。

竹内一正『イーロン・マスクはスティーブ・ジョブズを超えたのか』(PHPビジネス新書)

イーロンは今年2022年で前年比50%増の成長を目指しているが、それを成し遂げるには下半期の巻き返しがより一層重要になってくる。上海工場の稼働回復と、ベルリン並びにオースティン新工場の出荷台数が生産計画の値に近づけば、達成は現実味を帯びてくるだろう。

新工場と新型EVの立ち上げで苦労する体験をこれまでイーロンは何度もしてきた。そして、いずれも挫折を乗り越えテスラは期待値以上の成長を遂げてきたことも歴史は証明している。ならば、今回もイーロン・マスクはやってのけるのだろうし、その自信を秘めているはずだ。

ただし、彼がコントロールできない要因がある。リチウムなどの原材料価格の高騰だ。昨年来、モデル3などの価格を上げざるを得ない状況が続いてきたが、当面解消されそうもない。

EVの生産台数を年率5割もアップしながらコストを抑えるという試練は、まだまだイーロン・マスクにつきまといそうだ。

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