日本政府を縛る「原子力依存型」モデル

電力の需給逼迫をもたらした供給サイドの真因は何か。それは、電力業界や政府内で長く支配的であった、そして今も強い影響力を有する「原子力依存型」のビジネスモデルにあると言うべきであろう。

「原子力依存型」モデルとは、原子力発電を主力電源とみなし、電源構成のなかで原子力を最優先させる考え方である。このモデルは、今でも電力業界で主流となっており、大半の旧一般電気事業者は、原子力発電所の再稼働を再重点課題としている。

原発再稼働は、収益効果が大きいだけでなく、電気料金引き下げを通じて電力市場での競争優位確保を可能にするからである。すでに再稼働を果たした関西電力・九州電力・四国電力が、「電力業界の勝ち組」とみなされているのは、このような事情による。

2018年策定の第5次エネルギー基本計画以降、「再生可能エネルギー主力電源化」を掲げるようになった日本政府も、「原子力依存型」モデルの呪縛から逃れられてはいない。2022年5月に打ち出した「クリーンエネルギー戦略」のなかで、原子力発電の「最大限活用」をうたったことは、その証左と言える。

再生エネの普及が進まず、送電網も問題だらけなワケ

「原子力依存型」モデルの呪縛は、再生可能エネルギーの普及を遅らせる大きな原因となった。2018年の第5次エネルギー基本計画で政府が、せっかく「再生エネ主力電源化」へ舵を切りながら、肝心の2030年の電源構成見通しにおける再生エネの比率が22~24%に据え置いたことは、それを象徴する出来事だった。

この22~24%という再生エネ比率は、パリ協定締結以前の2015年に設定されたものであり、再生エネ普及への日本の消極的な姿勢を示すものとして、国際的にも批判の対象となっていた。にもかかわらず、日本政府が2018年の時点でも再生エネ比率を22~24%にとどめたのは、再生エネ比率の上昇が原子力比率の低下につながることをおそれたからにほかならない。

そもそも、「原子力依存型」モデルは、電気事業の真のレーゾンデートル(存在意義)を「誤解」したものである。電気事業のレーゾンデートルを支える基盤は、けっして発電力にあるのではなく、停電を起こさない系統運用能力にあるからだ。電気は、基本的には、生産したと同時に消費しなければならない特殊な商品である。発電は他の事業主体でも担いうるが、系統運用は電気事業者にしか遂行できない固有の業務であることを忘れてはならない。

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電気事業のレーゾンデートルを系統運用に見出すという「基本」を忘れた「原子力依存型」モデルの呪縛にとらわれた政府と電力業界は、当然の帰結として、送電網の拡充に十分な力を注ぐことがなかった。早くからその重大さが指摘されてきたにもかかわらず、東西間の送電連系の脆弱性が抜本的に改善されてこなかった背景には、このような事情が存在する。

電力需給の逼迫をもたらした真の原因は、電力業界と政府に根づいた「原子力依存型」モデルにあった。その意味で原子力は、日本の電気事業における「喉に刺さった骨」なのである。