ロシア経済は急速に悪化している
ロシアは1月分を最後に貿易統計の公表を中止しているため、ロシア側の統計から貿易の実像に迫ることはできない。そのため相手国側の貿易から推察するしかないが、これまでロシアの輸入の約半分を占めていたヨーロッパからの輸入が急減していることが、欧州連合(EU)統計局(ユーロスタット)の統計から確認できる(図表2)。
一方で、石油やガスの輸出は堅調なようだ。主な輸出先は経済・金融制裁に加わっていない新興国であり、ロシアはそうした国々に国際価格よりも3割程度安い金額で原油を輸出していると言われている。事実、インド通関データを確認すると、ロシアからの米ドル建て輸入額は3月から5月の間に前年比で219.4%増えている。
つまるところ現在のロシアは、新興国向けに石油やガスが輸出できても、欧米から消費財を輸入することができない状況に陥っていると整理できる。その結果、貿易黒字が拡大し、それがこの間のルーブルの「V字回復」の大きな推進力になったと考えられるが、一方で国内のモノ不足はかなり深刻な状態にあると想像される。
ルーブル高はロシアに不都合
またルーブルが急回復するうえで、欧米からの制裁の対象から外れたガスプロムバンクは大きな役割を果たしたと考えられる。ロシアはウクライナに侵攻した後、ヨーロッパ各国に対して、ロシア最大のガス会社であるガスプロムから天然ガスを購入する場合、同社の金融子会社ガスプロムバンクに口座を開設し、決済を行うよう要求した。
ドイツやイタリアのエネルギー大手は、このロシア政府の要求に従いガスプロムバンクに口座を開設、ユーロや米ドルで送金を行った。そのガスプロムバンクが外貨売りルーブル買いを行ったことが、ルーブルの「V字回復」に貢献した。経済・金融制裁のためにルーブル相場が薄商いだったことも「V字回復」を促したはずだ。
とはいえ、ルーブル高は今のロシアにとって必ずしも福音にはならない。ルーブル安のほうが国内の資源企業は利益が稼げるため、政府の税収も増える。しかしルーブル高になれば利益が減少するため、税収も減ることになる。一方、欧米との関係が悪化したため、ルーブル高でもヨーロッパからの輸入が増えることにはつながらない。
ヨーロッパから輸入していたものを新興国から輸入できれば良いのだろうが、そうは簡単にはいかない。7月5日にロシアのシルアノフ財務相がルーブル売り介入の可能性に言及、ルーブル相場が急落した。シルアノフ財務相の発言は、高過ぎるルーブルがロシア経済にとって必ずしも好ましくはないという事実を物語るものだった。
ルーブルは安過ぎても輸入インフレ圧力を生むし、高過ぎても輸出と財政に逆風となる。少なくとも、「V字回復」をもってロシア経済は強いとは評価しえない。