ウクライナの少年や成人男性の被害も

被害者は女性が圧倒的多数を占めるが、なかには少年や成人男性らが被害者となるケースも起きている。英ガーディアン紙が5月に報じたところによると、紛争下の性暴力問題を担当するプラミラ・パッテン国連特別大使は記者会見で、「未検証ではありますが、ウクライナの男性および少年に対する性暴力事件の報告を複数受けています」と説明した。

過去の例をひもとけば2000年、ロシアの契約軍人らが派遣先のチェチェンにおいて、現地女性と男性の両方に性的暴行を加えていたことが非政府組織(NGO)による報告書を通じて明らかになっている。

法学誌『欧州国際法ジャーナル』が発表したブログ記事によると、男性を標的とした性的暴行は少なくとも選別収容所において、男性兵士の自白を促す目的で実施されていた模様だ。

選別収容所とは、一般市民と過激派思想の持ち主をふるい分けるための施設だ。現在のウクライナ侵攻に関してもロシア側が設営している。ロシアに避難するウクライナ市民を強制的に一時収容し、携帯のロックを解除させてメッセージの履歴を検閲するほか、時には拷問を加えるなどの手法で個人の信条を検査している。

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被害報告は氷山の一角

これまでに知られている性犯罪被害の報告は、氷山の一角である可能性がある。事件の性質上、捜査当局に被害届を出したり、報道機関の取材に応じたりといった行動を起こしている被害者は、ごく一部にとどまるとみられる。

冒頭の19歳少女もワシントン・ポスト紙の取材に応じたが、正式な被害の申し立ては現時点で行っていないと述べた。「心の準備が整わないのです」と少女は語る。

実際に被害を届け出たとしても、犯人が捕まる公算は低い。ガーディアン紙は、かつてキーウ周辺にいたロシア兵加害者らが、軍の撤退に伴いすでにロシアに帰国したおそれがあると指摘している。

問われるプーチンと軍幹部らの罪

だが、それでも勇気を振り絞り、忌まわしい経験を打ち明ける被害者たちもいる。

被害者ホットラインやウクライナ捜査当局に提供されるこうした事例は、非人道的な戦争犯罪の証拠になると期待されている。戦争犯罪には時効がないため、ロシア兵たちが犯した罪がゆるされる日は訪れない。

現実問題としては、個々の事件を国際法廷で裁くことは難しいだろう。だが豪ABCは、十分な証拠が集まれば、軍上層部やプーチンへの打撃となる可能性があるとの見解を報じている。