大阪は今でも「食い倒れ」の都

このように、国ごとの比較で、エンゲル係数の高さは所得水準との相関で見ると、通常より高い国や低い国があることが分かったが、こうした食への傾倒度の違いは国内の各地域でも見られる。

今回は紙面の関係で取り上げられなかったが、中国では、同じように所得水準の高い沿海部地域であっても、中国南部の福建省や広東省のほうが同等の所得水準を示す中国北部の遼寧省や江蘇省よりずっとエンゲル係数が高くなっており、まさに「食は広州にあり」といった傾向を示している(興味のある方は、「社会実情データ図録」の図録8520をご覧ください)。

日本でも、江戸時代から、大阪は「食い倒れ」、京は「着倒れ」、江戸は「呑み倒れ」と言い、家計が破綻しかねないほど食・衣服・アルコールに傾倒する地域人気風を表す言葉として知られている。

こうした特徴が今でも存在しているかを確かめるため、各都道府県のエンゲル係数と所得水準の相関を示す図を図表3に描いた(※)

(※)各都道府県は県庁所在市の値で示し、所得水準については、代理変数として消費水準に替えて表している。また、コロナ禍の影響を避けた時期を選び、2015年から19年にかけての5カ年平均値を採用している。

エンゲル係数が最も高いのは大阪の29.1%であり、次いで京都28.8%、兵庫28.2%、青森27.8%となっている。最もエンゲル係数が低いのは、香川22.5%であり、山口23.4%がこれに次いでいる。

消費支出との相関は、エンゲルの法則どおり、負の相関となっているが、相関の程度を示すR2値は0.2636とそれほど大きくない。

例えば、大阪は家計の消費額が少ないからエンゲル係数が高いという側面より、「食」への傾斜度が所得水準の割に大きいという側面が目立っている。京都や兵庫、東京、神奈川などもそうした側面が大きい。これらはいわば「食い倒れ地域」なのである。1次回帰式の直線をオレンジ色で示しているが、この直線より上に離れれば離れるほど「食い倒れ度」が高いといえる。

逆の方向に、すなわち「食に淡泊」なほうに片寄っていることで目立つのは大分、鹿児島、香川などである。エンゲル係数が最低なのは香川であるが、「うどん県」であることが影響している可能性があろう。どんなに凝ったうどん食でも費用面では少なく済んでしまうので、食費割合も低くならざるを得ないわけである。

食費だけではない全体の消費支出の水準は大阪、京都、兵庫という大阪圏では低く、東京、神奈川という東京圏では高いという大きな差異があるが、消費水準の割にエンゲル係数が高いという面では両地域は共通である。

ただし、大阪圏、東京圏といった大都市圏では食料品価格が高いからエンゲル係数が高くなっているだけかもしれないという疑問が生じるであろう。

この点を確認してみると、確かに、東京、横浜などは、全国平均より3%前後食料品価格が高いので、そういう面も無視できない。しかし、大阪、京都、神戸などは、割高とはいっても1%以下であり、そうした面からの高エンゲル係数とはいえない。価格水準を考慮した実質食費でエンゲル係数を算出して同様の相関図を描いても状況はあまり変化がないのである。