大好きな人たちに「お別れ」のあいさつを始めた

突然のウルトラマンの登場に、一馬は「ウルトラマンだ! ティガだ! うわああ!」と大喜び。翌日になっても、「夢にウルトラマンが出てきた」と嬉しそうに話します。両親の中で、「残された時間、一馬の好きなことをさせてあげたい」と思う出来事だったようです。

写真=時事通信フォト
映画「大決戦!超ウルトラ8兄弟」制作発表会記者会見=2008年4月22日東京・東京国際フォーラム

2019年10月、両親は萬田診療所へ面談に来ました。私は、まだ抗がん剤治療を続けて、一馬の死を受け入れることに迷いが残っていた両親に、「本人に愛と感謝をこれでもかと伝えて、一馬の好きなことを全部叶えてあげましょう」と提案しました。

両親が病院に帰って一馬の意思を聞くと、一馬は「退院する! もう病院には来ない!」と言いました。こうして一馬は自宅に戻りました。自宅に戻った一馬は、妹のユリナとおもちゃで遊んだり、レゴを作ったり、動画を観たり、ユリナが歌を歌うのを笑ったりと、楽しそうにすごしました。

自宅生活の10日目のことです。

一馬は誰に言われるでもなく、大好きな人たちに「お別れ」のあいさつを始めました。まずは、遊びに来ていた従兄弟のホノちゃんを呼びます。「ホノちゃん、大好きだよ!」と一馬が言うと、ホノちゃんはキョトンとします。「だから、大好きだよ!」とかぶせます。周囲の大人がビックリする中、ホノちゃんも一馬に後押しされて「大好きだよ」と答えます。

「次はレイナ!」と従兄弟のレイナちゃんが呼ばれます。「レイナ、大好きだよ! さっきは怒ったけど、好きなの!」と一馬。レイナも答えます。「大好きだよ」。そこへ妹のユリナも割り込んできます。「ユリナのことは大好き?」「大好きだよ。だって一人は寂しいじゃん!」と一馬。大人たちは涙を流します。そして気づきます。そう、これはやはりお別れのあいさつなんだ……。

たとえ何歳でも、人は自分の死期がわかる

一馬はその日、「もう、ダメだ」と繰り返していました。自分が亡くなることを悟っていたのです。その言い方はまるで大人のようでした。大人以上に大人のようでした。

大人から見ると、4歳児が「死を受け入れる」ことなどできるはずがないと思います。死さえ何かもわからないのに、と。でも、そんなことはないんです。たとえ何歳でも、人は自分の死期がわかる、そして死を受け入れた人間は、誰に教わったわけでもないのに、大切な人たちに、さよなら、ありがとうのあいさつをするのだと教えられました。

2019年10月11日、一馬は天国へ旅立ちました。自宅に戻ってからの11日間、一馬は家族や親戚にたくさん愛され、たくさん笑って、たくさん抱きしめられて、たくさん褒められて、たくさんチューされて、亡くなりました。